第3章 籠鳥姫
部屋まで手を引かれて連れて行かれると、和泉さんはあっさりと部屋の前で別れ、踵を返して階段を降りて行った。
私は和泉さんの背中にお辞儀して、自分の部屋に戻る。
なんだか、今日は長かったようで短い一日だった。
朝はアクーチャの動画に驚かされて、出勤したら初めての社員証を渡されて、タレントさん達の表を作り、仕事終わりには鳥居先生から鬱病だって言われた。
・・・いや、やっぱり長い一日だったな。
布団を敷きながら、今日を振り返る。
この世界に来てからというもの、私が望んでいた平凡な日常とは、ほど遠い事ばかり。
きっと、明日からも何かしら忙しい日々を送る事になるのだろう。
だけれど。
思い浮かべるのは、夕食を頂いていた時に和泉さんがふと見せた、あの柔らかい笑顔。
年相応の、少年の表情だった。
いつも澄ました顔でどんなハプニングにも対応しているから、まだ十七歳だという事を、ついつい忘れてしまいそうになる。
気配り上手で、本人もそれを相手に悟らせない人だから、私も甘えてしまうけれど。
いつかちゃんと、恩を返して、お姉さんとして信用してほしいと思う。
床に就いて、目を閉じる。
優しい彼に頼ってもらえるよう、今はまず風邪を早く治さなければ。
(だって私はもう大人なんやもん)
大人なら、風邪くらい一日で治してしまえ。
甘ったれるな、私は格好いい大人のお姉さんになるんだから。
明日起きたら、改めて丁寧に和泉さんにお礼を言おう。
気を配ってくれた環くんや逢坂さんや三月くんにも、元気な姿を見せなければ。
今日は、陸くんと六弥さんには会わなかったな。
陸くんには風邪を移してしまわないように、なるべく顔を合わせない方が良いのかな。
それから、二階堂さん。
小さい声で、悪かったって言ってくれた。
私が気をつけて接していけば、きっと二階堂さんとも仲良くなれるはずだ。
皆さんと仲良くなって、お役に立てる日が来たら。
どんな、に、素敵、な、事・・・だろう・・・な。
和泉、さん、と、もっと・・・。
そこで薬が効いてきたのか、私は深い眠りに落ちた。