第3章 籠鳥姫
目の前に和泉さんが腰かけて、私が食事を口にするのを監視している。
まるでここまで管理されていると、一周回って囚人になったような気分だ。
特に、和泉さんの眼力がすごい。
食欲は無いけれど、雑炊は温かく、仄かにいい匂いもしている。
ここで断ったら、さすがに失礼な気がする。
――拒否権は無いとも言われたし。
「頂きます」
両手を合わせ、スプーンを手にとる。
ほんの少し掬って、息を吹きかけ冷まし、食べてみた。
・・・味が、分かる。
優しい味噌の風味が口内に広がり、後味に葱の爽やかな匂いが鼻にぬける。
和泉さんの、心がこもった料理だった。
和泉さんは、私の顔をじっと見つめてくる。
「あ、ありがとう、ございます。美味しいです。とても」
人に見られながら食事をしているのが恥ずかしくて、顔をそらしてお礼を言う。
手間をかけて作ってくれた物を、残してしまうのは勿体ない。
私は、椀の中身をせっせと口に運んだ。
「ごちそうさま、でした」
食べ終わる頃には、体が内側からほんのりぽかぽかして来ていた。
和泉さんは、紙コップに入れた水と、鳥居先生の風邪薬を無言で私に差し出してきた。
薬もきちんと飲んで、私は和泉さんに頭を下げる。
「あの、もう、薬も飲みましたから。どうぞ、お風呂行って下さい」
「一人で階段を上がれるんですか?」
「そ、れは。多分。きっと。なんとか。できる、と思います」
和泉さんから目を反らして、答える。
ふっ、と急に吹き出されて。
「あなた、それで嘘ついてるつもりなんですか?」
馬鹿にされているのに、その眼差しにはどこか優しさが込められていた。
「ね、熱があるから、いつもより頭が回らないせいだと思います!」
「つまり、一人で三階まで歩くのは無理という事ですよね」
「・・・〜っ。無理、ではありません! 時間をかければ、いつか着きますから!」
「はいはい。早く部屋に戻りましょうね」
「私は子供じゃないです! 和泉さんよりもお姉さんなんです!」
「そんなに口答えできるなら、多少は元気になったという事ですね」
なぜか一向に相手にされないまま、私はまた和泉さんに手を引かれて歩き出した。
階段を上ると息がすぐに上がってしまって、本当に何も言えなくなる。
恥ずかしながら和泉さんの言った通り、私は一人では三階まで階段を上がれなかったかもしれない。
