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get back my life![アイナナ]

第3章 籠鳥姫


 ドライヤーを片付けると、和泉さんは私の手を引いて立たせた。
 そのまま部屋を出て、リビングまで連れて来られる。
 食卓の席に座らせられ、私は訳が分からず和泉さんに声をかけた。
「あの、和泉さん、お風呂は?」
 私の後に入ると確かに言っていたのに、彼はキッチンに立って料理を始めようとしている。
「あなたがちゃんと食事して、薬を飲んで頂いたのを確認してからに決まってるじゃないですか。歩くのもやっとなのに、ご自分で食事の用意ができると思ってます? 面倒だからと何も口にしないで、水だけ飲んで薬を服用して寝ようという魂胆なら、バレてますからね」
 鍋に水を張り、葱を切りながら和泉さんに言われてしまった。
 ぐうの音もでない。
 そこまで見透かされると、自分が彼よりお姉さんな事を疑いたくなる。
 だって、食欲が無いのだから、無理に何か口にしようとなんて思えないではないか。
「お腹、空いてへん」
「私がわざわざ作って差し上げるんですから、きっちり食べて頂きます。あなたに拒否権はありませんから」
 そういうの強要って言うんですよご存知無いんですか、なんて言い返せる勇気は勿論私にはなくて。
「お手数おかけします」
 渋々、大人な対応を取った。
「そう思うなら、早く風邪を治して精神科の病院にも行って下さい。あなたの事は私が預かっているんです。さっさと仕事に復帰して頂いて、我々アイドリッシュセブンの役に立って頂かなくては困ります。私達はもっと上を目指しているんですから」
 精神科の病院か。
 ・・・嫌だな。
 行って、もし本当に鬱病だって診断されたら、私はどうすれば良いんだ。
 ここは異世界で、私の幻覚とか夢とかじゃない現実でもあって、地元から遠く離れた東京で、二階堂さんから嫌われていて、恩人の和泉さんには迷惑ばかりかけていて、アクーチャっていうキャラクターと私が似ているって言われていて。
 ただでさえ私は一杯一杯で不器用なのに、鬱病なんて言われたら、どうやって毎日生きて行けば良いのか。
 もっと、分からなくなる。
 暗い気持ちが、私をすっぽり覆い隠そうとしている。
 明日への希望が持てない。
 私に生きている価値なんて、あるのだろうか――。
「何をぼうっとしているんです、早く食べて下さい」
 気がつけば、目の前にはお椀一杯の雑炊とスプーンが置かれていた。
 落ち着いた紺色の食器。
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