第3章 籠鳥姫
悪くない座り心地だ。
でも、長時間これに座って、和泉さんは勉学に勤しむのだろう。
背凭れにも柔らかいカバーがあれば、きっともっと勉強に集中できるはずだ。
一番最初にお給金をもらえたら、鳥居先生にお金を少しずつ返すのと、和泉さんには背凭れカバーをプレゼントしよう。
勉強机の上には、教科書とノートが拡げられている。
お勉強の邪魔をしてしまったのかもしれない。
って、部屋をジロジロ見るなと言われたばかりなんだった。
目線を自分の膝の上に固定して、両手を組む。
何となく落ち着けなくて、指先で遊んでいた。
「では、タオルを外しますよ」
真後ろから声をかけてきた和泉さんは、右手にドライヤーを持っていた。
なぜ、と疑問を口にする前に、無理矢理ぐいと正面を向かされて。
和泉さんはドライヤーで、私の髪を乾かし始めた。
優しい手付きが、時おりくすぐったくて、肩が上がってしまう。
気を抜くと変な声を出してしまいそうだったので、精一杯こらえた。
身体に無駄な力が入る。
でも仕方ない、くすぐったい物はくすぐったいのだ。
「よし、完璧ですね」
満足そうな和泉さんの声がして、ようやく開放された時には、もう本当に長い時間が流れていたように感じた。
やっと肩の力を抜くと、なんだかとても疲れてしまっていて。
感謝はしているのだけれど、シンプルにドライヤーだけ貸してくれれば、こんなに気を張らなくてすんだのにと思うと。
ちょっと、素直にありがとうとは言いたくなかった。
「昨晩、どうせ髪が濡れたまま放置したでしょう、あなた」
「・・・なんで、そう思うんですか?」
図星だったが、認めるのは自分を間抜けだと言うみたいで嫌だったので、質問で返した。
「今日鳥居先生と連絡した時に、あの荷物の中にドライヤーがあるのか確認しました。鳥居先生は、入れ忘れていないはずだが、鞄の底の方に入れてあるからあなたが気づいてないかもしれない、とおっしゃいました。そして、今朝見たあなたの髪は、とても女性のものには見えなかったので、何もしなかったんだろうと思ったんです。違いますか?」
・・・当たっている。
私は顔を正面に戻し、がっくりと肩を落とした。
女性のものには見えないって、何気にひどい、和泉さん。
そこまで言わんくってもええやんか。
私は唇をすぼめて、悔しながら頷いた。
