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get back my life![アイナナ]

第3章 籠鳥姫


 ――未来の大物女優、なまけもの役の山中一華に、大きな拍手を――!
 客席から上がる歓声、光り輝くスポットライト、幼い私に集められた異常な数の目玉の焦点。
 私は、身がすくんで団長さんの腕にしがみつき、震えて目をぎゅっと閉じた。
 乗っていた船は、突然揺さぶられる。
 大きく波打ち、水音の代わりに私を呼ぶ声がした。
 そうだ、これは夢。

 ゆっくり目を開けると、私の左肩に手を置く和泉さんが見える。
「ようやく起きましたか。着きましたので出ますよ」
 声をかけられながら、和泉さんとタクシーに乗っていた事を思い出す。
 さっきまで見ていた夢のせいか、私の体はじっとりと汗が滲んでいた。
 気だるく重い体をなんとか動かし、和泉さんの手に引っ張られてタクシーを降りる。
 外は雨が降っていた。
 雨の勢いは強く、大きな雨粒が私の汗ばんだ体をすぐにずぶ濡れにした。
 ピカッ。
 ゴロゴロドカン。
 大きな雷の音に驚いて、思わず和泉さんの胸に飛び込む。
 かなり近くに落ちたと思う。
 怯えて震える私は、和泉さんの手を力いっぱい握り、その腕にしがみつくように体を縮こませていた。
 あ、と気づく。
「ごめんなさい、痛かったですか?」
 慌てて和泉さんから離れて、握っていた手からぱっと力を抜いた。
 でも、私の左手は和泉さんの右手に掴まれたまま。
「ちょっと、急に動かないで下さい! そっちは車道ですよ!」
 叱られると同時に手を強く引かれて、また和泉さんの胸にもたれかかる。
 冬の雨に頭が冷やされたおかげか、私の思考が意外と回る。
 この体勢は、ちょっと恥ずかしいかもしれない、さすがに。
「あの、くっついてたら誤解されてしまいます。和泉さんのご迷惑になるかもしれません」
「何言ってるんですか。こんな街中であなたにぶっ倒れられた方が迷惑です。黙ってついてきて下さい。少し歩きますよ」
 寮の真横にタクシーを停めるのは、さすがに他のメンバーや事務所にも配慮して避けたのだろう。
 私たちが降りた歩道は、寮がある道とは違う場所のようだった。
 和泉さんが、私の手を一度離して、私たちの頭の上にコートをかける。
 熱がある私を気遣って、雨避けにと行動してくれたのだろう。
「そっち側を片手で持って。ゆっくり歩きますから、私に着いてきて下さい」
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