第1章 落ちて拾われて
日は既に落ちきっていた。
風は冷たく、肌を刺すような寒さをより強くする。
季節は冬の年明けからまだあまり経っていない。
作業服のままでは、体が凍りつきそうだ。
「まずは中に入ろうか」
男性の包み込むような優しい笑顔が、私をオフィスの中へ招き入れてくれる。
ドアを押して案内してくれた少女も、どうぞ、と声をかけてくれた。
「失礼いたします。お邪魔します」
ありがたく中へ入ると、そのまま狭い階段を登る。
数えられる程度の角を曲がって、小部屋に通された。
扉には小鳥遊事務所と書いてある。
先を歩いていた男性と少女に続いて、小部屋の中へ入った。
ここが彼らのオフィスなのだろう。
「失礼します」
今度は丁寧に頭を下げて、静かに扉を閉めた。
これでも、社会人としての基本マナーは身に着けているつもりだ。
小部屋、と思っていた室内は意外にも広く、私が住んでいるアパートの一部屋が丸々入りそうなくらい。
「初めまして。私はこの小鳥遊事務所の社長、小鳥遊音晴です。鳥居先生から、君の事をある程度聞いたよ」
差し出された右手に両手で答えて、軽く頭を下げる。
「山中一華です。初めまして」
褐色のスーツの男性は社長さん。
年は、私の父より少し若いくらいに見える。
小さくとも、これだけしっかりとした部屋を借りられる事務所の社長だ。
きっとまともな仕事をコツコツとなされているのだろう。
事務室の明るい棚や、書類が山積みの机、可愛らしいカバーがつけられたソファーやクッションを見て推測した。
「こちらは社員の小鳥遊紡。年は若いけど、腕は信頼してほしい」
「ご紹介に預りました、小鳥遊です! よろしくお願いしますね」
明るくて礼儀正しい女の子。
良い子そうだし、明るい室内で見た彼女は、やっぱり思ってた以上に可愛い。
社長と同じく紡さんにも握手を求められて、私はやはり両手を添える。
仲良くなれたらいいな。
社長さんと同じ名字って事は、親戚の子だろうか。
私よりずっと幼く見えるのに、なんて偉い子なんだろう。
感激しちゃうっ。
「よろしくお願いします、紡さん」
「さて、早速だけど本題に入らせてもらうよ」
社長さんは椅子の上に腰かけ、私の後ろを手で示した。
ぺこりと頭を下げて、ソファーに座らせてもらう。
ふぅ、と息を吐いた。