第1章 落ちて拾われて
「落ち着いてるね。もっと驚いて、何なら失神しちゃうかなーと思ってたけど。あんたは随分とタフガールだ!」
豪快に笑う鳥居先生を見ながら、溜め息を吐き出す。
「驚いてます。十分びっくりやもん。顔に出してないだけや」
半ば投げやりに呟くと、鳥居先生は笑うのをやめて。
「あんたも、訳アリの境遇かい。そんな子ばかり、この世界に来てしまうんだね。可哀想に。よく頑張って、大きくなったね。立派さ」
車がスピードを緩めて右に曲がる。
間もなくして、オフィス街の裏通りで止まった。
鳥居先生はシートベルトを外し、白衣の胸ポケットから携帯を取り出す。
顔の前に手のひらをかざされて、私はそのまま座っていた。
車の外に出て、鳥居先生は真上のオフィスを見上げながら、ニヤニヤ笑って話している。
しばらくすると、オフィスの中から褐色のスーツの男性と、同じくスーツ姿の可愛い女の子が出てきた。
三人は顔を合わせて何か会話している。
詳しい内容は聞こえないが、鳥居先生が二人を困らせている事だけは、表情から察した。
私も何となく気づいてはいたけれど、やっぱりこのお医者さま、ちょっとクセが強い。
「お待たせ。出ておいで」
鳥居先生の許しで、私が車を降りる。
と、先生は逆に車に乗って、じゃあね。
一言残し、呆気なく帰って行ってしまった。
「なんでやねん!」
走り去る車に向かって、私はつい大声でツッコミを入れていた。