• テキストサイズ

get back my life![アイナナ]

第3章 籠鳥姫


「約束して下さい、こんな風に異性に近寄らないと、絶対に。そうでなければ、私は気が気じゃありません」
 最後に言われた言葉は、注意というよりむしろ懇願に近いように思えた。
 文脈から察するに、恐らく私の身を案じてくれているのだろう。
 昨晩にも同じような事があったなと思い起こせば。
 六弥さんに手を引かれて連れて行かれた時に、三月くんから私の事を子供扱いするみたいにして、叱られたのだ。
 兄弟揃って、心配性でお節介なんだなと思う。
 あの時三月くんには、適当な嘘をついてしまったけど。
 今は、和泉さんに対して粗雑な態度を取ろうとは思わなかった。
 約束を交わさなければならない、と思った。
 だって和泉さんは、何かを我慢しているように見えたから。
 譲歩して譲歩して、私に最低限の決まり事を作ってくれた、ように見えるから。
「分かりました。約束します。次からは、お声がけすれば良いんですね。覚えました」
 すんなり頷く私に、長いため息を吐き出す和泉さん。
 そのまま深呼吸して、書き置きは読んで頂けましたか、と尋ねられた。
 私は胸ポケットからもう一度、メモ書きを取り出して和泉さんに見せる。
「これの事ですね? 最初は紡さんからのものだと思ってました」
「撮影に出る前に急いで書いたものだったので、私の名前を添える時間も無かったんです。それで、話というのは、あなた自身の事です」
 和泉さんは、会議室の扉を開き、私を中へ招き入れる。
 会議室には電気が点いており、中には一人の女性が居た。
 派手な容姿に白衣姿の、神出鬼没な彼女。
 鳥居先生だった。
「やあ。診察に来たよ」
 会議室の椅子に深く腰掛け、ラフに片手を上げて声をかけられる。
 診察? なぜ?
 分からなくて棒立ちになっている私の肩に、和泉さんが軽くトンと手を置いた。
 すぐに離れる左手に不安を覚えつつ、隣に居る和泉さんの顔を見上げる。
「あなたの体調、もしくは精神面に、何か無理をさせているのではと思って、私が連絡して来て頂きました。今朝、あなたの顔はとても健常者には見えませんでしたし、お昼過ぎに顔を合わせた時だって、余裕のない表情をなさってましたからね。何かあってからでは遅いので、一応。先生にご連絡すると、あなたは週一回、必ず通院しなければならないと聞きましたので」
「私、和泉さんに気を遣わせてしまったんですね」
/ 190ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp