第3章 籠鳥姫
「おっさんが怖がらせるから、一華泣き出したぞ!」
「俺のせいかよ! 今日は会話らしい会話すらしてねぇってのに!」
「それが駄目なんだろ? 同じ事務所の仲間なんだから、お疲れ様とか、新人なのに頑張ってるなとか、色々言ってやればいいじゃねーか! 一華と同い年なんだからさ」
三月くんと二階堂さんが喧嘩になってる・・・!
私が泣いたりしたから、私のせいで・・・!
いい大人なのに人前で涙見せて、グループ間に不和まで持ち込んで、私ってなんて最低な人間なんだ!
「ご、ごめんなさい。この涙は、気にせんといて下さい。私は大丈夫やから。二階堂さんを、どうか、責めんといて!」
あふれそうになる涙を押し殺して訴える。
せっかく素敵なグループなんだから、仲良くしてほしい。
私が大きな声で叫ぶと、皆さんはポカンとした顔で私を凝視した。
まずい、感情に任せて、また失礼な事を言ってしまっただろうか。
「ありがとうございます山中さん! 嬉しいです!」
私の両手をぎゅっと握って、紡さんが満面の笑みを浮かべる。
「びっくりさせちまって悪い。俺と大和さんは、こうやって意見交換するのが普通でさ。ケンカしてるように見えたんだな」
「僕も配慮すべきだったね。ごめんね一華さん。二人はああやって言い合いになる事も珍しくないんだ。ちょっとしたミーティングみたいなものだと思ってくれて良いからね」
三月くんと逢坂さんが、優しく説明してくれた。
二階堂さんを見ると、目は合わないものの、小声で悪かった、と一言謝ってくれた。
その気遣いが、嬉しくてまた涙が出そうになる。
「いえ。こちらこそ、皆さんをもっと理解しようと、努力すべきでした。ごめんなさい。これからは、もっと皆さんのお役に立てるよう、がんばりますね」
目元に残る涙を指でぬぐい、心からの笑顔を向ける。
忘れていた、最初彼らの寮に訪れた時の感覚を。
あの時外から眺めた彼らの空間は、とても暖かく見えたのだ。
寒い夜の道路で、それこそ手をかざせば暖を取れそうなくらいに感じた、あの第一印象。
彼らの心は、ぽかぽかと温かい。
二階堂さんの事は、正直まだ怖いけれど。
きっといつか、普通にお話できる日がくる、って。
なぜか信じられた。
「そうだ、忘れていました! 一織さんが待ってますよ!」