第3章 籠鳥姫
一生懸命な彼らの姿を見る事には、まだ抵抗があるのが私の本心だ。
どう取り繕って返事をしようか迷っていると、三月くんは二階堂さんと逢坂さんのところへ行って、ダンスや歌の打ち合わせを始めてしまった。
彼らの実力は、素人目に見ても、本物だと思う。
何より、お客さんを楽しませようとしている彼らの情熱は、製紙工場の職人の人達と同じくらい熱い。
プロ意識というか。
そんな物を感じる。
私なんかが、本気でステージに挑む彼らの役に立っていいはずが無い。
私は役目を全うできなかった人間なんだから。
準備運動が終わり、カセットから音楽が流れる。
その歌いだし。
声を聞いて、はっとした。
この歌声は、きっと和泉さんのものだ。
不安、葛藤、憧れ、希望、そして自信。
彼が抱いている心が、録音された音声から伝わってくる。
アイドリッシュセブンのセンターは、最初は和泉さんではなく、陸くんだった。
今日一日作り続けていた資料の情報に、書いてあった真実。
和泉さんは、陸くんの病状が安定するまでの、期間限定の代役センターだった。
アイドリッシュセブンのメンバーで飛び抜けた歌声を持つ陸くんの、代役。
どれほどのプレッシャーだろう、どれほどの迷いがあっただろう。
ただでさえ、和泉さんは学業とアイドルを両立させなければならない大変な身なのに。
メンバーの事を気づかえる観察眼もあって、もしもの事態に対応できるよう、いつだって気を張り詰めて仕事しているのだろうに。
それでも、ファンや私達の前で見せる和泉さんの姿は、自信家で完璧主義な少年。
そんな自信、私ならとっくにくじけて、崩れ落ちている。
やっぱり、和泉さんはすごい。
曲に合わせてステップを踏み、手足を綺麗に合わせて踊る三人。
細かなテンポにも合わせて、指先、つま先まで意識している。
この曲のセンター、和泉さんのパーフェクトなパフォーマンスを、もっとパーフェクトに魅せるように。
その向上心、その団結力。
私は、曲名にあるように、和泉さんの歌に込められた仕掛けに魅了され、はめられたのかもしれない。
上げる腕の角度、踏み出す歩幅、全ての動きを丁寧に重ねる三人。
そのステージから、目が離せない。
怖いのに、逃げたいのに、反らしたいのに。
和泉さんの歌声が、私を惹きつけて縛る。
それは、まるで――。
