第3章 籠鳥姫
――そうして、資料作成にまた没頭している内に午後八時を過ぎ。
紡さん達が事務所へ帰ってきた。
陸くん、環くん、六弥さん、和泉さんは寮へ帰宅するため、レッスンする三人を事務所まで連れ帰ったばかりだというのに、またすぐに紡さんは運転へ戻るらしい。
私は、三人のレッスンの付き添いをお願いされた。
急いで車へ戻る紡さんを、大変だなと思いつつ。
指示された通り二階堂さん達の付き添いのため、私は訓練場へ向かう。
書き置きの事は、きっと四人を寮へ送り届けた後で聞かされるのだろう。
訓練場の中に入ると、大人三人が柔軟運動をしているところだった。
「おつかれさまです。紡さんから付き添いを頼まれましたので、こちらへ参りました」
一応、頭を下げて一声かける。
歩み寄ってくれたのは逢坂さんだった。
「お疲れ様。一華さん今日は大丈夫だった? 一日中デスクワークだったって、一織くんから聞いたよ。無理してない?」
なんだかとても心配されている。
そういえば、今朝起きた時の顔を逢坂さんにも見られてたっけ。
あの時は、髪はボサボサで化粧もしてなかったから、疲れた顔に見えたのかな。
赤の他人の私に、そこまで心配してくれなくても良いのに。
逢坂さんは優しいから、無駄に気づかわせてしまったのかもしれない。
「大丈夫ですよ、私は大人ですから。今は早く仕事を覚えて、会社のお役に立たなくちゃいけませんから。ご心配下さって、ありがとうございますね」
微笑みを浮かべてそう言えば、逢坂さんはこれ以上踏み込もうとはしてこなかった。
なら良かった、と言って、今度は二階堂さんの所へ戻る。
入れ違いになるように、三月くんが話しかけてきた。
「本当なら、一華はもう帰っていい時間なのに。俺達のせいで残業させて、悪いな。マネージャーが戻ってきたら、多分帰ってくれていいと思うからさ。ちょっとだけ付き合ってくれよな」
「とんでもないです」
申し訳なさそうに言う三月くんに、私は首を振って答えた。
「ただ座って皆さんのおそばに居るだけですから、こんなの残業にもなりませんよ。撮影が終わったばかりなのに、練習を重ねる皆さんの方が、ずっとお疲れだと思います。どうぞ、お気になさらず」
「じゃあ、せっかくだから俺達が踊ってるのを見て、楽しんでくれよ!」
屈託のない笑顔で言われた。