第3章 籠鳥姫
出社して社員証を首からさげ、デスクに向かって書類と向き合う。
営業成績をグラフ化し、所属タレントの売れ行きを可視化する。
ここの事務所のタレントは、皆それなりに仕事があるようで。
落ち目と言われるような評価は見られない。
まあ、トップかそれ以外か、くらいの差はあるけれど。
こんなシビアでデリケートな事、入りたての私が扱って良いものなのか、と疑問には思うが。
与えられた仕事を黙々とこなす、それが私のやるべき事なのだと自分を言い聞かせた。
それでも、やっぱり扱う情報が情報なだけに、昼休憩のタイミングで大神さんに相談。
返ってきた返事は、
「山中さんなら問題ないと、社長も判断したようなので!」
明るく言い切られてしまっては仕方ないと、そのまま私は書類作成を進めた。
パソコンに向かって作業していたのが何時間だったのか、自分では全く感覚が無かった。
突然肩を揺さぶられて、手が止まる。
隣を見上げると、不機嫌顔の二階堂さん、和泉さん、そして困った顔の紡さんが私を見ていた。
私の肩に手を置いていたのは、二階堂さんらしい。
「なんでしょうか?」
キーボードに乗せていた両手を膝の上に移動させ、私が尋ねる。
「何、じゃねーだろ。さっきからマネージャーが声かけてんのに、なんで無視してんだよ」
「そうなんですか? すみません。ちょっと集中し過ぎてたみたいで、聞こえませんでした。ご指示があれば承ります」
座ったまま頭を下げると、二階堂さんは更に怒っているようで、和泉さんは目線を鋭くしている。
紡さんは、なんだか心配そうな顔で、私に時計を指して教えてくれた。
「これからアイドリッシュセブンの撮影があるので、帰ってくるまでに訓練場を清掃して頂けたらと思っているのですが。あの、体調が悪いなら、早退しますか?」
「お掃除ですね、分かりました。体調はご心配なく。私はこれでも大人ですから、自分の体が動けるかどうかくらい、分かってますよ。何時までに終わらせれば良いでしょうか?」
笑顔で応じると、紡さんは安心して仕事を任せてくれた。
時計は昼下り、夕方前の午後三時を示していた。
撮影が終わって事務所に帰ってくるのは八時頃の予定で、その後二階堂さんや三月くん、逢坂さんが残ってレッスンするのだという。
「大変ですね。撮影、頑張ってきてくださいね」
