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get back my life![アイナナ]

第3章 籠鳥姫


 空を見上げると、その寒さにも納得した。
 どんよりとした曇り空。
 今にも雨か雪かが降りそうな天気だ。
 携帯は持ってないし、昨晩はずっと部屋に籠もっていたから、リビングにあるテレビさえ見ていない。
 だから天気予報を知らない。
 今日は降るのだろうか。
 いや、きっと降るのだろう。
 雷が鳴ってもおかしくないくらい、曇天は暗く重々しい。
 もし濡れて帰ってくる事になったら、すぐにコンビニで傘を買って、銭湯に行こう。
 そんな予定を立てていた私に、逢坂さんが唐突に質問してきた。
「寮に泊まるってなった時に、言ってたよね一華さん。確か、一人につきメリットを一つずつ、みたいな事」
「あー。はい、言いましたね。何かリクエストですか?」
 答えられる範囲なら努力して答えよう、と思っている私の覚悟に。
 逢坂さんは、水を差す訳じゃないんだけど、と前置きして言った。
「そういうギブ&テイクみたいな考え方、あんまり好きじゃないんだ。そもそも一華さんはうちの事務所の社員さんなんだから、僕達は必然的に、君にお世話になる形だ。その上に、まだ君に無理強いするなんて、あまり気分の良くない物に感じる。あくまで、僕個人の意見だけれどね」
 だから、自分には何もしなくていいよ、と逢坂さんは断言した。
 私は、どうすれば良いのか分からなくて、何も返事できなかった。
 だってその言葉は私にとって、お前にそれだけの価値を求めてない要らない、って言われてるようなものだったから。
 期待されていないのに恩を押し付ける事はできない。
 でも、期待すらされなければ、私の価値を明示される事もない。
 ただそこに在るだけの人間に、まともな生き方は選べない。
 私は無力だ。
 そんなの分かっている。
 だけど、無力だからこそ、力をつけて知識をつけて、人の役に立つ人間になりたかった。
 ――もしも、私に何か誇れる特技があったなら。
 何もない自分が歯がゆく、けれどそれを覆すほどの能力を、習得する術もない。
 逢坂さんは優しい人だ。
 けれどその優しさは、私にとって無慈悲でしかなかった。
 短い通勤時間。
 これといった会話もなく、事務所に着く。
 逢坂さんは訓練場へ、私は事務室へ向かった。
 やるせなさを顔に出さぬよう、私はまた仮面を被る。
「おはようございます!」
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