• テキストサイズ

get back my life![アイナナ]

第3章 籠鳥姫


 リビングには、逢坂さんだけが残っていた。
 他の面々は先に出ていて、私が残っているから戸締まりを彼がする事になったらしい。
 戸締まりくらい、任せてもらっても良かったんだけどな。
 まあ私は所詮、赤の他人という事か。
「忘れ物は無い?」
 逢坂さんが尋ねてくれる。
「はい。まだ新人やから、必要な物も特に無いねん」
 私が答えると、逢坂さんはくすくす笑った。
「方言って、その人のアイデンティティの一部だよね。なんか、すごく一華さんっぽい話し方だと思う」
 よく分からないけど、きっと褒められているのだろうと思って、私は首を振った。
「恐縮です」
「無理に標準語に直さなくても良いのに。三月さんもそう言ってたじゃない」
 玄関から二人出て、鍵を閉めながら逢坂さんが言う。
「言葉は相手に伝わってこその物だと思いますので」
「でも、一華さんは方言で話してる時の方が、感情が出てると思うけどな。それに可愛いよ」
「んなっ・・・!」
 不意打ちの褒め言葉、これがアイドルの力なのか?
 言葉を失った私を、逢坂さんが先に進むよう促した。
「じゃあ、行こうか。もう道は覚えた?」
「それが、お恥ずかしながら、まだ曖昧なんです」
「なら、しばらくは誰かと一緒に通勤するのが良さそうだね。僕からみんなに言っておくよ」
「ありがとうございます」
「他に困ってる事は無い?」
「・・・ありません。ありがとうございます」
 細かい気配りができる逢坂さんは、きっと陸くんの体調の事や、学生の二人の事もよく見ているんだろうと思う。
 そんな人に、大人の私の面倒まで見てもらうのは、気が引ける。
 自分の事は、なるべく自分一人で解決したい。
 それにしても、冬の朝ってどうしてこんなにも寒いんだろう。
/ 190ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp