第3章 籠鳥姫
お金は賢く使う事、財布の中にある分は自由に使って。
これは、鳥居先生のメモ書きの三つ目の項目だった。
一つ目の項目は、鳥居先生の連絡先。
勤務先の病院の電話番号と、鳥居先生の個人の携帯の番号だ。
勤務初日、アイドシュシュセブンの稽古を見学していた時に、紡さんが教えてくれた緊急用の連絡先と、同じ番号だったから。
アイドリッシュセブンのメンバーから携帯を借りて、どちらかの番号にかければ鳥居先生と連絡が着くはずだ、と教えてくれた。
その時に、私個人の携帯が無い事を伝えると、紡さんは「事務所から貸し出せる携帯を用意しますね!」と笑顔で応じてくれた。
女神様かと思った。
紡さんは、私と三つも歳が離れている。
なのにとても気配りができて、すごくしっかりしていて。
アイドリッシュセブンの彼らのマネージャーなだけあって、負けず劣らずの頑張り屋さん。
仕事にはいつも真摯で、真剣だ。
出会ったばかりの彼女を、なぜ私がそこまで高く評価できるのかというと。
答えは、アイドリッシュセブンの彼らからの、紡さんへの信頼や絆を見ていて、すぐに分かったからだ。
とある個人の人間性を知りたければ、周りの人間がその個人にどう接しているのかを見れば、大概分かる。
そして、鳥居先生の人間性は、このメモ書きを見ていれば何となく分かった。
一つ目の項目が連絡先。
二つ目の項目は私個人の健康管理についての注意点。
三つ目の項目が金銭問題と日常生活。
四つ目の項目には、少し哲学的な事が書かれていた。
「コマッタ トキ クルシイ トキ アル ナッタラ ジブンヲダイジ ニスル マモル ゼッタイ アキラメナイ」
これは、異世界へ来てしまった私の心がくじけないように、踏ん張れるようにと思って、書いたのだろうか。
何にせよ、昨夜三月くんが言っていたように、鳥居先生は確かにマメで世話焼きなのだという事は分かる。
そして、五つ目の項目。
「クスリ トクベツ シュウ イッカイ ゼッタイ、デグチ サガス イッショ」
これは多分、毎週診察に来なさい、みたいな意味だと思う。
ここまで読み解いて、出勤時間が来た。
鏡台の前で、自分の化粧に見落としが無いか最終チェックする。
うん、大丈夫だろう、きっと。
私は財布と鳥居先生のメモ書きを鞄に入れて、部屋を出た。