第3章 籠鳥姫
服装は、選ぶ余地などなく"かわいい"もので全身飾るしか無かった。
作業服なんて以ての他、昨日着ていた服は兎のきなこの毛がついている。
昨晩の洋服はシワがついてしまっていたから、もうどの服を選ぼうが変わらないのだ。
部屋の中で昨夜ののり弁を食べ、リビングへ降りる。
リビングには逢坂さん、和泉さん、三月くん、陸くんがいる。
私を見るや否や、皆一様に視線がじっと、私の顔に集中する。
まさか、血色をよく見せるために使ったチークが、ちょっとやりすぎだったのだろうか。
部屋に戻って、もう一度化粧し直そうかと思っていた私の足を止めたのは、陸くんの声。
分かった、と大きな声を上げると、キラキラした目で私を指差す。
「どこかで見たことあると思ったら、バーチャルアクターのアクーチャちゃんだ!」
アクーチャ・・・って誰の事や?
どうやら私とそっくりというアクーチャなる人物。
その名前が出た途端に、残る三人も納得したように頷いた。
「え、何なん? バーチャルアクター? 何それ知らんねんけど」
状況が掴めず困惑する私に、逢坂さんが携帯の画面で動画を見せてくれた。
映されたのは電子的な世界で表された舞台。
上演されているのは「親指姫」のようだ。
花のセットの中で伸びやかな歌声を響かせ、画面のこちら側を親指姫の「母親」に見立ててセリフを言う。
「お母さま、今日もお花の蜜が美味しいわ。ずっとこんな日が続けば、きっと私もお母さまも幸せね」
親指姫を演じるアクーチャがにっこりと笑う。
確かに、その少女は私の幼い頃そっくりだ。
しかも親指姫は、私もかつて演じた事のある演目。
正確には、演じるはずだった主役、だが。
アクーチャの芝居はそのシーンのみで、他の配役が出てくる様子は無い。
動画も幕が下ろされてすぐに再生が終わった。
短い芝居だ。
「一華って、アクーチャだったんだな。すげえじゃん!」
三月くんから褒められる。
でも、私は首を振った。
「違う。アクーチャなんて知らへん。私はただの、何の取り柄もないただの一般人や」
叫んで逢坂さんに詰め寄る。
私は有名人じゃない!
こんな動画知らない!
アクーチャなんて演じてない!
取り乱した私の肩に手を置いて、落ち着いて下さい、と声をかけてくれた。
和泉さん。