第3章 籠鳥姫
それは呪われた舞台として、地方新聞の一面を飾った。
有名な童話「籠鳥姫」またの名を「鳥になったお姫さま」の、舞台公演初日の事件。
三部構成の演劇の二部終盤、お姫さま役の主演女優が舞台上で、本物の刃物を使って自殺。
舞台当日、事件直後には関係者の誰もが、主役の死を理解できていなかったにもかかわらず、舞台の幕引きのシーンで、ただの子役がアドリブで、物語を結末まで語った。
事件後、子役はもちろん警察から事情聴取をされたが、主演の自殺も舞台のアドリブについても、子役の答えが曖昧で詳細は不明。
子役は警察に、こう語ったと言う。
――主演の女の人の願いを叶えたかっただけなの。
マスコミはこの事件の真相を、こぞって推理し報道した。
時に、オカルト的にも。
ネットでは、更に過激な追及と推論が行われ、演者達はそれらの情報に振り回された。
劇団が支払った給料が、主演女優の望む額よりも少なかったと語る者。
落ち目だった主演女優の執念の自殺だったと語る者。
アドリブを入れた子役が有名になるために主演女優を殺したと語る者。
童話の原作者の台本とは違う演出に、原作者が舞台に呪いをかけたと語る者。
この事件は、警察としては主演女優の自殺として発表された。
だが事件の収束は遅く、その一件以来「籠鳥姫」を上演する舞台は消えた。
劇団内部の者からの物と思われる写真の投稿が、後にネットで騒ぎ立てられる。
その写真は「籠鳥姫」の台本の、まさに二部終盤のページを写していた。
籠鳥姫のストーリーは、大まかに説明するとこうだ。
――親の言いつけで塔に囚われているお姫さまが、ある日小鳥と友だちになる。
小鳥はお姫さまの代わりに外の世界を飛びまわり、その景色をお姫さまに教えてくれる。
お姫さまは小鳥が羨ましくなると、小鳥が塔の中に入り、お姫さまの姿に変身する。
お姫さまは小鳥にお礼を言って、自らを鳥の姿へ変身させ、塔から出て自由になれる――というお話だ。
だが台本には、こう書かれていた。
――小鳥「わたしはあなた。あなたはわたし。わたしはあなたが作った妄想」
――お姫さま(小鳥の言葉に驚き、怯えた表情で首を振る。髪が乱れ、お姫さまの表情が隠れる)
――小鳥「ごめんなさい。でもこれは真実なの」
――お姫さま「いいえ。嘘よ」小鳥の命を短剣で奪う。
――暗転。
