第2章 始めて掴まれて
こういう面倒くさい外国人に絡まれた時に使うセリフは、まあ無くもない。
私の数少ない英語知識から、失礼ながら言わせてもらう。
「ドントゥタッチミー!」
気安く触ってんじゃねーよ、という意味だ。
少々荒い言葉使いになってしまったけど仕方ない、普通に言っても伝わらなかったんだから。
六弥さんはパッと両腕から解放してくれた。
その表情は驚きと少しの好奇心。
やめて下さい私ぬいぐるみじゃないので。
自分の身を守るように、両腕を胸の前に持ってくる。
また抱きつかれたら押し返さないと。
「ところで、イチカはアニメはお好きですか?」
急に投げかけられた言葉に対して、間抜けな声で返さずに居れた私を、誰か盛大にほめてくれても良いと思う。
どういう展開を期待されているのか分からない。
というか何を聞かれているのか分からない。
ジュエリーショップをご存知ですか、って質問されていた方が、六弥さん相手だとしっくりくる。
宝石店なんてそばを通りがかった事もないけどね!
アニメって、あのあにめ?
アニメーションのアニメで合ってる?
話の筋が全く見えず、私は再び和泉さんに目を向ける。
「って居ない?!」
ついさっきまで隣に居たはずの少年の姿が見えず、思わず口から出てしまった声。
どうされましたか、と優しく尋ねてくれる六弥さんだけど、そこは出来ればスルーでお願いします。
不思議そうに六弥さんが首を傾げるのを見て、私は顔を赤くする。
「アニメは、まあ、好きですけど」
「では一緒に魔法少女まじかる★ここな、の鑑賞会をしましょう! ここなの魅力、アナタにもきっとお分かり頂けると思います! さあ!」
苦し紛れに質問に答えた私に、六弥さんは目の色を変えて詰めよってくる。
そのまま私の手を引いて、彼が向かう先には三月くんの部屋。
ドアをノックして、輝く瞳でどこからか取り出したDVDを掲げて見せる六弥さん。
部屋の主は、六弥さんと私を見て。
そして胸の前でバツ印を作った。
「ノーに決まってんだろ! 何一華振り回してんだよ!」
叱る三月くんの姿はさすがお兄ちゃんって感じで、六弥さんはオヤツをもらえなかった飼い犬みたいにガックリと肩を落とした。
また六弥さんの事で困ったら、三月くんにそれとなくお願いしようと思う。