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get back my life![アイナナ]

第2章 始めて掴まれて


 この寒さが、私の感情を覆い尽くして、動かさないようにしてくれれば良い。
 氷のように冷たい夜風を浴びて、貼り付けた仮面を厚くする。
 格好悪い私を弱い私を、気取らせないように。
 悟らせないように。
 知られなくない、隠していたい。
 作り上げた微笑みは、我ながら完璧だった。

 先頭を歩くのは三月くんと環くん。
 新曲のダンスに対する解釈を、生き生きと話している。
 そんな二人の話を聞いて、自分なりの表現を深める逢坂さん。
 生真面目な話の腰を折るように、独自のイメージで感想を述べる陸くんと六弥さんが後に続き。
 わいわいと盛り上がる彼らを慈しむような眼差しで黙って見守るのは二階堂さん。
 和泉さんは彼らの輪の中から少し離れて、私のすぐ目の前を、興味無さげに歩いていた。
「事務所のもふもふに触りましたね」
 突然の問いかけに驚く。
「もふもふ・・・って、兎の事ですか? はい。あったかくて、とても癒されました。毎日でもモフモフしたいです」
「それは許せません。七瀬さんは、動物の毛にも弱いんです」
 和泉さんに指摘されて、前を歩く笑顔の陸くんを見る。
 そうか、だからさっきのレッスンで私は近寄らせてもらえなかったんだ。
 いや、あの言い方は拒絶されてたってほうが合点がいく。
 たぶんやケド、私のやることなすこと、和泉さんには全部気に障るんやろうなぁ。
 ちょっと悲しいし、切ない。
 私は和泉さんとも二階堂さんとも、仲良くなれたら良いと思ってる。
 嫌われるのは、相性というものも人にはあるから、仕方ない事かもしれないけれど。
 仕事で関わっていくんだし、しばらく同じ寮で過ごすんだし、やっぱり仲良くしたい。
 私は人から嫌われる事に慣れてないのだ。
「ですから、今日はお風呂入ってくださいね。銭湯には私が案内しますから」
 もしや臭かったか私?
 手で口元を隠すフリをして、自分の匂いを確かめる。
 今朝つけた香水の香りももう無くなっていて、自分では分からない。
 自覚無しに体臭がきつくなっていたかもしれないと思うと。
 夜風も吹いてないのに、うすら寒くなった。
 確認できないからこそ、なんだか無性に恥ずかしい。
 赤くなった顔が早く冷めればいいのにと願いながら、さっきより少し距離をとって彼らの後に続いた。
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