第2章 始めて掴まれて
なのに、私はその後、仕事らしい仕事を出来ずに就業となってしまった。
書類整理を手伝おうと大神さんに伺えば、初日の私が出来る物は残っていないからアイドルのレッスンに付いていて欲しいと言われ。
訓練場に入って彼らの邪魔にならないように様子を伺っていたら、あまり近づくなと和泉さんに毛嫌いされ。
それでも汗をかいて振り付けや歌唱のクオリティを高めていく彼らの、真摯な姿勢を見ているのは、私には堪えられなくて。
飲み物の買い出しを申し出れば、女の子一人で夜の外を歩かせられないと、逢坂さんに付き添わせてしまった。
栄光を掴むために輝きを強くする彼らの光は、役を捨てて舞台から逃げた私には眩しすぎる。
何も悪くない彼らから、つい目を背ける私に、それでも彼らは優しくしてくれた。
そこに座って見ていて!
明るい笑顔で言う陸くんに、頷きを返す事さえ、してあげられなかった。
嫌な人間だな、私は。
涙が滲みそうになると、天井を見上げて必死にこらえた。
私が泣いても、彼らに要らぬ気遣いをさせてしまうだけだ。
時々唇をかんで、惨めな気持ちを飲み込む。
心が波立たないように、彼らが励む音さえ無視して。
本当、私は嫌な人間。
そうやって、時が過ぎ去った。
せめて、最後に部屋の掃除くらいはさせてほしくて。
帰り支度を始めた彼らの裏で、こっそり用具入れに近づけば、肩を掴まれて阻まれた。
「何をしているんですか。あなたも早く用意して下さい」
和泉さんの目は、有無を言わせてもらえそうになかった。
事務室に戻ると、お疲れさまでした、と大神さんに言われてしまう。
ごめんなさい、私が何もできない人間で。
心の中で自分を責めながら、荷物をまとめて笑顔で頭を下げる。
また、取り繕ってしまった。
そんな後悔が胸を占めるのは、罪悪感からか、自意識過剰からくるのか。
自己嫌悪する私は、それでも顔に貼り付けた仮面を崩さない。
七人の後に着いて事務所を出る。
外はとても寒くて、私の息を凍らせようとしているかのようだった。