第2章 始めて掴まれて
アイドル達七人に、社長さん大神さん、そして私。
合計十人ぶんのお弁当を二袋に分けて渡してもらう。
会計を済ませて受け取った袋は、一つでもそれなりの重みがあった。
陸くんの前ではああ言ったけれど、私は別に力持ちとはいえない。
体を動かす職場で働いていたから体力は人並み以上の自信があるけど、重たい物をせっせと運ぶ筋力は培っていないのだ。
どうやって持ち帰ろうかなと考えていると、横から二袋まとめて、細い腕がかっさらってしまう。
「ぼんやりしてたら、せっかくのお弁当が冷めてしまうでしょう」
私を注意したのは和泉さんだった。
なぜここに、というか、いつの間に。
袋を片方渡してもらって、両腕で抱えるようにして持つ。
そんな私の姿に、和泉さんは眉をひそめた。
非力でごめんなさい、怒らないで下さい、さすがに人前で年下に叱られるのはちょっと辛いです。
「ほら! 急ぎますよ!」
「はい、只今!」
先に事務所へ戻る和泉さんを追いかける。
すたすたと歩く彼の後ろに着いて行くと、僅かに息が上がりそうなくらい。
陸くんの前ではお姉ちゃん出来てたのに、和泉さんの前では私は小学生みたいだ。
もっとしっかりしないと、恩を仇で返すことになりかねない。
頑張ろう。
いつか頼ってもらえるくらいに。
訓練場に帰ってくると、お弁当の袋を持っている和泉さんに、陸くんがまた噛みついた。
「一織ばっかずるい!」
「どっちがですか」
礼を言いながら袋の中の弁当を受け取る面々は、二人の言い合いを特に気にしてなさそう。
今までなら受け流す感じでいたはずの和泉さんが、私の目には何やら不機嫌そうに見えてしまって。
アイドルのセンターって、すごく疲れやすい仕事なのかなとか思うと。
和泉さんが不機嫌なのは、きっと私の荷物持ちをさせてしまったからだ。
ごめんなさい、ごめんなさい、もう全部私が悪いから許して。
ヒヤヒヤしながら二人の成り行きを見ていると、手をパンパンと二回鳴らされた音が響いた。