第2章 始めて掴まれて
昨日と今日の二日間で私が感じていた和泉さんは、どちらかというと影の立役者なイメージだったから。
ヒーロー戦隊のカラーで例えるならブルー。
レッドの無茶振りに付き合い、尻拭いを引き受ける立ち位置だ。
レッドが陸くんで、ブルーが和泉さん、そう思っていたから。
しかも、和泉さんの衣装イメージカラーはブルーではなく黒。
ますます意外だった。
一通り話が終わると、紡さんは私に目を向ける。
「これから皆さんはレッスンがあるので、訓練場に入ります。山中さんは、皆さんの夕食の買い出しをお願いします。私は撮影所に戻って、スタッフさんと会議です。就業までアイドリッシュセブンには、山中さんに着いて頂こうと思っていますが、お願いできますか?」
「分かりました」
すぐに返事した私を見て、紡さんは笑顔になる。
事務所の財布と弁当屋までの地図書きがされたメモを手渡されて、早速事務所を出た。
「待って」
と後ろから声。
振り返って見ると、事務所の扉をくぐって出てきたのは陸くんだ。
「一人で俺達全員の弁当持つの大変でしょ? 手伝うよ」
「ありがとう。でも、体に障るといけないから戻って。こう見えても私、重たい物でも少しは平気なんだから。お姉さんに任せなさい」
見栄をはって自分の胸を叩く。
だって、陸くんは咳が辛い病気なんだって、さっき聞いたばかりだし。
それでも素直に戻ろうとせず、気遣わしげに私を見つめる陸くんに、なんだか逆に申し訳なくなる。
気持ちは嬉しいんだけどね、うん、心配が上回っちゃうんだ。
納得してもらう為に、他の理由も並べてみる。
「レッスン前は柔軟体操が大事でしょう? 今の時期は体が縮こまりやすいから、声が思うように出ない事もある。お客さんには、少しでも格好いい自分に魅せたいじゃない。そのためのレッスンなんだから。油断しちゃだーめ」
優しく諭したつもりだけど、陸くんはみるみるしょんぼりしてしまう。
やれやれ、手のかかる弟みたいだね、キミは。
私より少し高い位置にある頭に、ぽんと手を乗せる。
赤毛をゆっくり撫でてやれば、陸くんはポッと顔を赤らめてうつむいた。
「わ、分かりました」
小さな声で頷いた陸くんの頭から手を離す。
ごめんね、照れちゃったね。
私は空いた手をそのままひらひらと振って、陸くんに背を向け歩き出した。
