第1章 落ちて拾われて
少し違和感を覚えつつも、私は鳥居先生の質問に正直に答えた。
先生の顔から、スマイルが消える。
「間違いない、あんたもあたしと同じ流れ者だね。この世界にやってきた大人の迷子さ。戸籍とか証明書とかは、あたしが用意するよ。帰り道が分かるまで、あんたの身の保障はあたしがしてあげる。この世界で最初に知り合ったのは?」
鳥居先生の言っている事が分からない。
何も理解できないまま、聞かれた事に答える。
私が最初に出会ったのは、落ち着いた感じの、あの男の子だ。
「和泉さんという若い男性です」
「彼か、面白いね・・・」
含み笑いを浮かべて、鳥居先生が背中を見せる。
「もう歩けるだろう? おいで、会わせてあげる。あんたにとって、この世界でのキーマンにね」
先を歩く鳥居先生に続いて、病室を出た。
ベッドから降りた時、私の格好は作業服のままだった。
鳥居先生に言われた事を、もう一度考えてみる。
流れ者。
大人の迷子。
世界。
まるで物語の中のセリフを聞かされているような、全く実感の無い言葉たちだ。
家に連絡を入れなくてもいいみたいだし、きっと病気ではないのだろう。
一瞬、自身の精神がおかしくなったのかとも思ったけれど。
「さ、助手席に乗って」
気づけば病院の外に出ていて、鳥居先生は車のエンジンを回していた。
「あの、どこに?」
「話は移動しながらでも出来るから。ほら、早く」