第1章 落ちて拾われて
「ハロー、新しい流れ者さん。気分はどうだい?」
深い眠りから私を目覚めさせたのは、落ち着いた女性の声だった。
女性は白衣のポケットに手を突っ込み、ニヤリと笑って私を見下ろしている。
艶やかな金髪と緑の瞳には、夕焼けの温かなオレンジをまとっていた。
細い首筋には、よく見ると痣がついている。
胸がとても大きい。
彼女は西洋人だろうか。
日本人の私より日本語が上手い。
びっくりだ。
「あたしは薬剤師の鳥居。救急車で運ばれたあんたを診させてもらったよ。安心しな、医師免許は持ってるからね」
お医者さま?
なら、お礼を言うべきかな。
長い時間寝てたらしい。
何か病気だったのだろうか。
「ありがとうございます。あの」
「まあ待ちな。落ち着いて話を聞いて、あたしの質問に答えて。オーケー?」
落ち着いて、という言葉が医者から言われる時というのは、大抵良くない病状の時だ。
私は何か、悪い病にかかってしまったのか。
そういえば、ずっとおかしな夢を見ていた気がする。
鍋に落ちたり、公園で色んな人から見られていたり。
でも、夢にしては妙にリアルだった気がする。
私はベッドから体を起こして、
「あんたの名前は?」
「山中一華です。助けて頂いて、ありがとうございました」
「ウェルカム。これがあたしの仕事だしね。それで、住んでるところは? どの辺り?」
「赤叉棚に住んでます。一人暮らしなので、いま家には誰も居ません」
私の家族は父と母、そして弟が居るけど、かれこれ三年くらい離ればなれ。
頻繁に連絡を取るわけでも無いし、出来れば家族には、私が病院に居る事は知られたくない。
余計な心配をさせたくないのもそうだけど。
「連絡先をお伝えするべきでしょうか?」
「ノー。それより、答えてね。赤叉棚は、どこ?」
「大阪です」
「大阪・・・ねぇ。持病は?」
「ありません。少し朝に弱いくらいで」
「気づいたらあの公園に?」
「え・・・。はい、そうです」
「サンクス。楽にして」