第2章 始めて掴まれて
大神さんが事務室に戻ってきたのは、それからすぐの事だった。
留守を預かっていた間に対応した電話の内容を報告、ファンの子から応援メッセージが来た事も伝える。
大神さんは、備品の買い出しと必要資料の調達、所属タレントさんとの打ち合わせをしていたらしい。
私の膝の上の兎は、まったりお昼寝中。
「きなこ、また勝手に出て来ちゃってたのか」
兎を見て眉を下げる大神さん。
きなこ、って名前なのか。
「すみません。すっかり癒されてしまっていました」
頬をかきながら白状すると、大神さんはクスクス笑う。
「山中さん動物好きなんですか? 女の子らしいところもあるんですね」
「実は、動物に触ったの今日が初めてなんです。兎ってこんなに温かいんですね」
眠っているきなこちゃんにはちょっと可哀想かなと思いつつも、ケージに戻さないといけないらしく大神さんに手渡す。
きなこは一瞬だけ驚いたように目を開けたけれど、またすぐに夢の中へ戻った。
きなこをケージに入れると、大神さんは事務室の掃除を始める。
私は引き続き書類整理をした。
夕刻、事務室が一気に賑やかになる。
インタビューを受けていた逢坂さんと環くんが戻ってきた。
ちょうど同じタイミングで、撮影に出ていた五人と紡さんも帰ってくる。
彼らと紡さんは、そのまま仕事の打ち合わせを始めた。
私も紡さんに呼ばれて、打ち合わせに参加する。
内容は、陸くんの体調確認、センター和泉くんの調子、ユニットでデビューしている逢坂さんと環くんの仕事などなど。
聞いていると、意外だなと思う事だらけだった。
元気な子のイメージだった陸くんが呼吸器系の病気持ちだったこと。
七人全員での活動よりも、ユニットの二人の仕事量が多いこと。
六弥さんがたったの二十歳で、三月くんは成人済みなこと。
何より、センターが和泉さんなこと。