第2章 始めて掴まれて
天空の城の少女が、炭鉱の少年に出会うあのシーンのような、現実味のない映像だった。
空から落ちてきた女性は、間違いなく私だ。
でも分からない。
私はこの世界に来た時、鍋の中に落ちたのだ。
そしてすぐに気を失っていたから、和泉さんに起こされるまでの自分は知らない。
芝生の上で目覚めた時、私の体は濡れていなかった。
最初からそこで自分は寝ていたのだと思っていたけど、まさか何もない空から落っこちていたとは。
この映像は合成なのではないかと疑うけれど。
二階堂さんがそんな映像をわざわざ作る事に、何の意味も無い。
あんな映像でも、だけどそれが事実なのだと悟る。
私が異世界トリップを体験しているのも、空から落ちてきたのも、事実。
実感すれば、得体の知れない寒気が背筋を這い上がってくる。
私は何者か、と二階堂さんは言った。
━━私は何なのだろう。
それは単純な疑問ではなく、もっとタチの悪いもの。
膨れ上がる不安と、自身への恐怖心だった。
これが夢なら醒めてほしい。
これが舞台なら、早くオチが着いてほしい。
演出と脚本に従ったお芝居に、私は脇役として出ているだけ。
照明が落とされてキャストが入れ替われば、私の出番は終わりでクランクアップ。
刺激的な物語だったね、って笑いながら舞台を降りるの。
━━だけど、この物語には観客の姿が見えない。
それが真実だった。
空気が重い。
緊張が走る。
息を吸って。
瞬きを一つ。
「私は山中一華。それ以外に答えはあらへんよ」
ため息混じりに告げた声は、僅かに震えてしまっていた。
咄嗟に被った余裕ある人の仮面は、薄っぺらで心もとない。
膝が笑っている。
それでも、私は私の心を奮い立たせて、二階堂さんに向き合うしかなかった。
今つきつけられた現実を受け入れるには、あまりに時間が足りなくて。
その現実を背負っていくには、あまりに私は弱すぎて。
見て見ぬ振りをする決意も勇気も持ち合わせていないから、なんとか現状維持でこらえるしかなかった。