第1章 落ちて拾われて
「意識ははっきりしているみたいですね」
男性は、心なしかほっとしたように言う。
「山中さん、私は和泉です。さっき救急車を呼びましたから、後はそちらの方に任せて下さい。それでは私は用事がありますので」
男性が立ち上がると、体の左側を風が冷ましていく。
私は余計に身を縮めながら、男性が去っていく方へ声を張り上げた。
「あの! ありがとうございました!」
男性は小さく会釈を返してくれた後、人垣の向こうへ消えていった。
間もなく救急車が到着し、私は救急隊の人たちに連れられて、病院へ運ばれる。
温かい毛布が体にかけられると、私は忘れていた眠気に再び包まれた。