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get back my life![アイナナ]

第2章 始めて掴まれて


「オー! グッモーニン、マネージャー!」
 紡さんの姿に瞳を輝かせて挨拶したのは、つい三十分前に別れたばかりの六弥さん。
 彼の声に反応して、他の面々も扉の前に立つ私たちに目を向ける。
 二階堂さんの他に、三月くん、陸くん、逢坂さんも居る。
 学生の和泉さんと環くんは放課後に合流、みたいな事を聞いたな、と思い出す。
 陸くんは私と目が合うと、柔軟をやめてパタパタとこちらへ駆けてきた。
「一華ちゃん早速来てくれたの! 嬉しいな!」
 ぱっと太陽のような笑顔を向けられると、まあ悪い気はしない。
「少しだけ、皆さんのご様子を見させてもらっても良いですか?」
 もちろん、と即答してくれた陸くん。
 他の人も異論は無いようで、笑顔を浮かべて頷いてくれる。
 二階堂さん以外は。
 彼は、反対意見を述べはしないものの、広い背中で私への拒絶を意思表示している。
 彼に対してどう接するかは、私の中でまだ決まっていない。
 でもせっかく受け入れてもらえたので、見学させてもらいたいと思う。
 二階堂さんが何も言おうとしないのを見て、私は壁際のパイプ椅子に腰かけた。
「マネージャー、何か連絡あんのか?」
 紡さんに尋ねたのは三月くん。
「いえ、私も見学です」
「じゃあ今日は俺、はりきって練習する!」
 両手に拳を作り、意気込む陸くん。
 授業参観で浮き足立つ小学生みたいで、可愛いな。
 紡さんも私の隣のパイプ椅子に座ると、彼らは柔軟を再開した。
 間もなく講師の先生が訓練場に入ってくる。
 先生と軽い挨拶が済まされると、ダンスレッスンは、いきなり音ありで始まった。
 それは一瞬のようで、長くも感じる目の離せない時間。
 成長途中の少年が見せる、アンバランスな魅力が光る。
 七人グループの彼らの内、欠けた二人の場所を開けて、五人が踊る。
 不完全ながら、完成に近づいている昂りが分かる。
 もっと良くしたい、という真剣さが瞳から伝わる。
 本気なんだ、みんな。
「ウチの看板アイドルです! 皆さん魅力的で、すごいんです! 七人揃ったら、もっと!」
 確信のような自信を持って、紡さんが言う。
 私は、それを聞いて、五人から視線を反らした。
 恥ずかしい、私がここに居ることが。
 舞台の上に立つ事に真っ直ぐな彼らと同じ空間に居ることが、恥ずかしい。
 私は舞台に立つ事を恐れた人間だから。
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