第2章 始めて掴まれて
「それで。自分からお尋ねしてしまって申し訳ないのですが、私はどんなお仕事をすれば宜しいのでしょうか」
「そうですね、まずはそれを、俺が山中さんにお教えします」
デスク前に移動した大神さんに着いて、パソコンの画面を覗きこむ。
表示されているのは、名前と、時刻、場所、事柄だ。
たぶんスケジュール表だろう。
「とりあえず、当分の山中さんの仕事は、わが小鳥遊事務所の所属タレントさんと、主な営業相手企業さんの名前と担当者の方々を全員覚えてもらう事。事務所のパソコンで必要書類の制作や印刷、配布。それから現場マネージャーです」
新人は何事も記憶と経験から始まるのは、ここも前の職場と同じらしい。
と言っても仕事内容は、肉体労働からデスクワークに変わりそうだから、きっと初めての事だらけだろう。
不安は尽きないが、やってみるしか無さそうだ。
「はい、承りました。頑張ります!」
返事は元気よく。
与えられた机に早速向かうと、大神さんは自分の持ち場へ戻っていった。
さあ、頑張るぞ、私!
と、息込んだのが三十分前。
私の集中力は、著しく低下していた。
昨晩、満足に眠れていないのに初出勤で慣れないデスクワークをしたのだから。
案の定、限界が見えるのも、とても早い。
所属タレント達や営業先などは、とりあえず目を通した。
ただ、頭に入ってこない。
パソコンに整理された画面も見たし、履歴書も名刺も確認した。
でも駄目だ。
どうにも記憶の整理がつけられない。
唯一完璧に覚えられたのは、所属タレントの中でもまだ契約が浅いアイドル達七人。
私が寮で共に一夜明かした彼らだけだ。
実際に会っているのと、そうでないのとでは大違いなのか、彼ら以外の情報は脳から抜けていく。
何か他の方法を考え出すか、大神さんに相談するか。
早くも、うなる私に彼女が声をかけてくれたのはそんな時。