第2章 始めて掴まれて
「初出社おつかれさまです山中一華さん。ようこそ小鳥遊事務所へ」
私を最初に迎え入れてくれたのは、黒い長髪を一つに纏めた男性だった。
彼は背が高く、笑顔も堂々としていて、寮の子達と負けず劣らずの格好いい顔立ち。
彼の後ろの壁を見ると、寮の子たち七人が写ったアイドルグループの宣伝紙が貼られている。
この世界の人は、揃いも揃ってイケメンすぎるのでは、と思った。
(アイドルがメインのアプリゲームの世界の住人たちなのだから、当然と言われれば当然の事かもしれへんけどなぁ)
「初めまして。本日付けでこちらの社員に採用して頂きました、山中一華です。よろしくお願いいたします」
「俺は大神万理と言います。こちらこそ、よろしくお願いしますね」
頭を下げて改めて名乗れば、大神さんが爽やかな笑顔で答えてくれる。
紡さんとは違う名字の人も働いているのだと知って、私は無粋ながら、彼も親戚の人か気になったけど。
紡さんと社長さんは、ブロンドに近い明るくて軽やかな茶髪と桃色の瞳をしているのに対して、大神さんは艶やかな黒髪と青緑の瞳だ。
血縁としては他人と判断した方がいいと思う。
ただ、三月くんと和泉さんの兄弟も似ていない外見だから、決めつけるのは良くないのだろうが。
「失礼ですけど、山中さんは新卒ですか?」
「ご覧のとおり、私は二十二ですけど」
「それは失礼しました。紡さんと同じ年に見えたものですから。山中さんは、とても若く見えますね。でもすごく落ち着いていて、仕事でも頼りになりそうな人って感じがします」
お世辞かと思ったけど、目が真っ直ぐで、本心で言ってくれたんだなと分かる。
次の一言さえ聞かなければ、私も心から喜んで、頑張りますと言えたのに。
「アイドルの衣装を着てステージに立っていても、きっと誰も不思議に思わないくらい、可愛らしいお顔立ちですね!」
「はは・・・。ありがとうございます。よく言われます」
つい、乾いた笑いが出てしまった。