第2章 始めて掴まれて
食事を終えると、和泉さんに声をかけられる。
後片付けくらいは一人でさせてもらおう、と考えていた私にとって、予想してなかった呼び出し。
まさか、何か失礼な事をしてしまったとか?
嫌な考えがちらつきながらも、近寄った。
「なに?」
「出勤時刻は早めの午前九時、場所は事務所です。地図はここです。六弥さんと二階堂さんが着いて行って下さいます。東京は人が多いですから、はぐれないように。はぐれても身バレ防止のために、誰もあなたを呼んであげられませんからね。逢坂さん、七瀬さん、兄さんの三人も、少し遅れて事務所へ向かいます。私と四葉さんは学校があるので、終わってから合流です。何か質問は?」
驚いた。
色々と沢山の事を一度に言われたからじゃない。
沢山の事を一度に言われたのに、そのテンポもタイミングも、私が理解できるペースで教えられて、驚いたのだ。
「質問は、ありません。ありがとう、行ってらっしゃい」
デザートに王様プリン食べ損なった、と呟いて気分を沈ませる環くんの背を押しながら、二人分の通学鞄を肩にかける和泉さんを私が見送る。
親切で、丁寧で、大人びていて、几帳面で、観察眼のある人。
まだ出会って一日も経っていないのに、こんなに良いところばかりの、しかも現役高校生アイドル。
なんてスペックの高い子なんだろう、とのんびり感心して。
はっと時計を目にした。
やばい、時間ないやん!
「洗い物手伝うで!」
身支度は朝整えたままで良いし、手荷物も特に無い。
出かけるまでの十数分を効率的に活用しないと。
手を上げれば、三月くんと逢坂さんが指示を出してくれた。
優雅なようで慌ただしい朝は、あっという間に過ぎて。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
私は外人さんと眼鏡の人と一緒に寮を出た。