第2章 始めて掴まれて
「ご飯できたから、みんな席つけよー」
三月くんが、おたま片手に声をかける。
私が和泉さんと雑誌を見ている間に、寮の全員が起きて部屋から出てきて、三月くんはエプロン着けて朝食を支度し、逢坂さんは食器の用意を始めていた。
私が見てない内に、気づかない内に、物事は進んでいた。
何か手伝わないと。
「私にできる事、教えて」
三月くんに言えば、色々とさせてくれた。
テーブルセッティング、皿運び、ドリンク移動。
みんな席に着いて、やれやれ、なんて一人思っていたら、視線が私に集中する。
一席、そこに私が居ても良いと言ってくれているような空間が残されている。
「いちねえ早く」
と間延びした声が急かす。
彼は、どうやら少しせっかちさんらしい。
体の大きい環くんの微笑ましい一面にくすりとしながら、小走りで空席に着いた。
というのは建前で、本当は食事を一緒に取らせてもらえたことが、すごくすごく嬉しくて・・・。
誰かと食卓を囲んだのは、もう何年前の事だったか分からない。
それでも、その何年前の食事よりも今この時に食べるご飯が、比べてずっと美味しいのは確かなことだ。
肌寒さに言い訳して、遅刻手前まで朝食抜きで布団にこもっていたのが、昨日までの私の日常だった。
今日も肌寒さに変わりは無いはずなのに、とてもポカポカして、元気が出てくるのはどうしてなんだろう?
ああ、また、頬が勝手に緩んでしまうではないか。