第1章 落ちて拾われて
「ちょっと、あなた! 聞こえますか! 起きて下さい!」
体を揺さぶられ、大きな声で男性に呼びかけられる。
避難訓練の最中に居眠りしてしまったのか、と一瞬斜め上の発想をした私。
そのまま、まどろんでいたい気持ちを奮い立たせ、目を開けた。
「大丈夫みたいですね」
起きられそうですか、と問いかけてくる少年。
私は額を押さえながら、重い体を起こした。
手には瑞々しい芝生の感触があり、地面に横たわっていた事を自覚する。
お尻も背中も冷たくはない。
泣きわめく赤子の声、しきりに犬が吠えていて少し耳障りだ。
単調な水の音は、吹き上がる噴水だろう。
どうやらここは公園らしい。
なんだか騒がしい周りを見てみれば、大人も子供も散歩中の犬も、皆が視線を私に向けて。
━━え、どういうこと?
急速に頭を回転させて、状況把握に努める。
そうだ、私は落ちたはずだ。
工場で働いていて、鍋を掃除していて、うっかり手を滑らせてその中へ。
あれは夢だったのか?
分からない。
でも、今はなんだか、体が寒い。
抱き締めた自分の体は、やはり工場の作業服を着ている。
「あなたは、誰なんですか?」
と少年。
声がする左を向くと、マスクとメガネを身に着けた黒髪の男性が、眉をしかめて私を見ていた。
「山中、一華です」