第2章 始めて掴まれて
いつの間にやら起きてリビングに集まってきた皆さん。
勢揃いの一面の真ん中に立つ、赤い目の男の子。
陸くんは私がこの寮に入る事に、賛成してくれた一人だ。
二度目の挨拶の時は、ぱっと顔を輝かせて喜んでくれた。
そんな陸くんが、羨ましいという感情を隠しもせずに伝えてくる。
「俺も一華ちゃんと話したい! 今日は仕事いっしょ? 俺はレッスンと撮影の日なんだ! レッスンはみんなでやる事もあってね、楽しいんだよ! 新しい曲を覚えたり、振り付けを覚えたり! お互い出来てない所は教えあって、出来てる所はみんなほめてくれるんだ! 一華ちゃんにも見てほしいなー。あっ、でも一緒に仕事できたら、いつでも見られるよ! 楽しみだね!」
陸くんは、話始めると止まらない。
話題がころころ変わって、寝不足の私は全く理解できずただ聞いている。
どうしよう、ちゃんと聞き直した方が良いかな、でもどのタイミングで?
私が困って、何か言おうと動かした手が宙ぶらりんになってあたふたしていると、右側から助け船が出た。
「七瀬さん、落ち着いて。彼女、困ってますよ」
もう、和泉さん様サマだと思ったよね。
回らない頭で下手に演じようとするよりも、人の手を借りて次のシーンへ移ってしまった方が早い。
誰かを頼るのが苦手な私に、その方法が取れるのは、隣に立つ人がお節介な時だ。
ありがたい、と思う。
同時に強くならねば、しっかりせねば、とも思う。
何の取り柄も無いのだから、せめて取り柄を持っている、かのように、見せる事はできる。
形から入って身になればいい。
完璧になるまでを、やり過ごせれば良い。
手を借りて次のシーンに入ったら、また演じ直せば物語は止まらない。