第2章 始めて掴まれて
「覗き見なんて、趣味の悪い人ですね」
真下から、少しトゲトゲとした声。
おっと、無意識に近づいて観察してしまっていた。
いけない。距離感、距離感っと。
「ごめんなさい、つい」
おやつをつまみ食いした子どもみたいに笑って謝る。
素直に謝れば、許可出してじっくり眺めて良いと言ってくれるような気がして。
予感は的中、まあ良いですけど、と言って和泉さんが、隣の席をすすめてくれた。
「あなたの意見も、聞いておかなければと思いますし」
私のオススメは、と流れるように雑誌の品々を紹介されて、私もふむふむと一つ一つ見ていく。
まるでホテルのレストランの店員さんから、当店自慢のコースはこちらの料理となります、って言われてるみたいな感じ。
淡々としているのに、特別な時間を用意されてるような気分。
顔を寄せあって話し合った結果、シンプルだけど可愛くて使い心地の良さそうな物で、方向性が定まった。
深く考えずに決めてしまったけど、きっと事務所のものを新しくするとか、模様替えとか、備蓄管理の一環だと思う。
何か力になれていたのなら良いのだけど、と期待した。
「一織いいなぁ、一華ちゃんともう仲良しなんだ」
唐突な感想と遠慮の無い視線。
それは雑誌を覗き込んでいた右側ではなく、左側から聞こえた。