第2章 始めて掴まれて
言い直してぺこりと頭を下げると、三月くんに口を開けて笑われた。
「無理に言い直さなくって良いよ。分からない時は聞き返すから、そん時は教えてくれたらいい。マジメな奴だな、一華って」
近づいてきた三月くんが、ぽんぽんと、私の肩を叩いた。
なるほど、こういう所を見ると確かにお兄さんだ。
三月くんは、和泉さんと実の兄弟。
あまり似ていないように思うけど、私も弟と性格が違うから驚かない。
というか、私は弟と何年も話すらしてないんだから、和泉さんと三月くんはすごく仲が良いんだと思う。
私は三月くんのマグカップを取り出して、ついさっき逢坂さんにしてもらったようにコーヒーを淹れた。
三月くんに渡すと、とても驚かれる。
「オレのマグカップ、よく分かったな!」
「昨日、和泉さんが皆さんに淹れてましたよね?」
首を傾げて答える。
あの時、柄を見たから覚えた。
全員、形もデザインもばらばらで個性的だったけど、大体それぞれの印象通りのカップだったから覚えやすかった。
今度は、マジメで面白い奴なんだな、と三月くんに言われる。
逢坂さんも柔らかく笑ってて、なんだか、こそばゆいと言うか。
居心地悪いとまではいかないけど、ちょっと落ち着かない。
逃げ場を探すように、私は和泉さんのそばに移動した。
案の定、と言っても良いのか?
和泉さんは、私が隣に来ても気にした様子もなく、クールにペンを持っている。
そういえば、昨晩もこのテーブルで調べものをしていた。
広げられているのは、付箋紙だらけの雑誌とメモ帳。
よほど熱心な調べものなんだなと思いつつ、後ろから覗きこむように見てしまう。
それは日用品の雑誌らしく、付箋には必需品、備品、消耗品、雑貨類、とマークされていた。
かなりマメだ。
親切で、丁寧で、大人びていて、さらに几帳面なひと。
私の中でも、和泉さんに関する情報として、新しい一面をタグ付けする。