第2章 始めて掴まれて
階段を降りてリビングに入ると、和泉さんと気配り上手の人が居た。
昨晩改めて挨拶した時に、それぞれの名前を聞いていた。
あの人は逢坂さん。
ここに住む事が決まると、最初こそ反対していた彼だが、優しい笑顔で了承してくれた。
何か困った事があったら相談に乗る、と言ってくれた温かな気遣いは、嬉しかったな。
「おはようございます、和泉さん、逢坂さん」
「おはようございます」
和泉さんは、私を皆さんに紹介して回ってくれた時、とても親切に見えた。
親切で、丁寧で、すごく大人びていて。
仲良くなれたら、ちゃんと恩返しをしたいって伝えたいなと思ったけど。
玄関で紡さんと私を迎え入れてくれた時と変わらず、和泉さんからは距離を感じる。
あまり馴れ馴れしいのが好きじゃないのかもしれないから、今は私も距離を保っていた方が良いのかな。
紡さんは、昨晩ワンピースに着替えて戻ってきた時、既に帰ってしまっていたらしく、ろくにお礼も言えていない。
今日顔を合わせたら、一言だけでも伝えようと思っていた。
「おはよう。よく眠れた?」
両手にマグカップを持ちながら、逢坂さんが聞いてくれる。
正直、あまりぐっすりとは眠れなかった。
気を失っていたのが夕方だったからか、化粧を落として布団にくるまって、やっと解放されたと安心してもなかなか眠くならず。
隣で熟睡していた鳥居先生とは真逆に、私は寝付けずに朝日の光を浴びていた。
途中、うとうとと浅い眠りには入れたけれど、どうしてもその先に行けず、寝返りをうつのを繰り返したのだ。
そんな事、部屋を借りている身で言えるわけもなく、化粧で目の下のクマを誤魔化せている事を願って笑顔を繕う。
「おかげさまで、野営もせずに済みました。ありがとうございます」
「良かった。たまに騒がしくしちゃうかもしれないけど、迷惑だったら言ってね」
「お気遣い、感謝致します」