第2章 始めて掴まれて
私が目を覚ますと、鳥居先生は早口で注意事項を並べ立てた。
寝ぼけた頭では聞き取れるはずも無いのを分かっていたのか、詳しい事はメモを見て、と言って颯爽と部屋から飛び出て行ってしまった。
朝からせわしい人だなと思う私。
昨晩、鳥居先生が持ってきた大荷物の上に、一枚のメモが乗せられている。
書かれている文字はカタカナで読みづらく、内容も多いので三行で読むのをやめた。
荷物の中身は好きに使って、と一行目に書いてあったので、適当な服に手を伸ばす。
が、フリルがあったりレースがあったり、どれもこれも幼い印象のデザインばかり。
少し考えて、私は昨日着てきた服に手をかけた。
一番外に着ていた作業服は、さすがに人前で着られるようなものじゃない。
でも、中に着ていた服ならまだ綺麗だ。
二日続けて同じ服を着るのはあまり良くないとは思うが、また人形になるのを恐れた。
ボトムスとコートは鳥居先生が選んだものでも、シャツがシンプルになるだけでずっと気持ちがマシだ。
シャワーも浴びずに寝てしまったから、匂いがしてないか少し気になる。
髪を適当にまとめて薄く化粧をし、香水をつけた。
もっと大人しい格好にしたかったが、贅沢は言えない。
着せ替え人形と変わらないだろうが、ここは受け入れてしまわなければ。
身支度を済ませると、頭がずいぶん冴えてきた。
今日は初出勤だ、どんな仕事をすれば良いのかは分からないけど。
この寮にいる人とも仲良くして、頑張らなければ。
仲良くできるのかな、こんな私に。
いや、やらねばならぬ。
よしと一呼吸ついて、部屋から出た。