第2章 始めて掴まれて
この世界で最初の一夜はあっという間に明けて、鳥居先生から容赦なく叩き起こされる。
今は何の取り柄もないただの女性になった私だけれど。
昔、私は劇団の子役をしていた。
フリルとリボンとレースのスカート。
ひらひらでふわふわのドレスを着せられて、舞台に上がって愛想良く笑う。
どんな役を演じても、私のやる事は変わらない。
いつも、大人たちが喜ぶ顔をしただけ。
周囲の人間は満足していたけど、そこに私の意思は無くて。
やりたい事を言うよりも、全て終わらせて解放してもらう方が早かった。
望まれた通りに振る舞うだけの簡単なお仕事。
いくら数をこなしても、私の欲しい物は与えてもらえなかった。
また今度ね、って言われて。
それが方便だと知った時は、気づかないフリをして夢を見続ける事さえも、嫌になっていた。
ああ、なんて汚い。
そう思ったのだ、あの時、自分に。
私は人から望まれる事しかできない人間に、なりたくない。
決意したのは一瞬で、やっぱり変われないと諦めたのは沢山で。
だから私が、人に望まれてステージで踊るアイドルと、一緒に仕事するなんて考えてなかった。
初出勤、初仕事。
私はとても、緊張しています。