第1章 落ちて拾われて
喧嘩を売りつける鳥居先生は、お医者さまというよりマフィアか何かに見える。
上から目線の物言いと、色々と話を盛った口上。
見え見えの安い挑発に、和泉さんは動じなかった。
「勿論、山中さんは私が責任を持って監視します。話はそれだけですか」
大人な対応で答えた和泉さんに、鳥居先生は満面の笑みで、それだけ、と言って階段を上がっていく。
また猛烈なスピードで進んだ話に着いて行けず、棒立ちで呆ける私。
つまり、何がどうなったん?
満足な説明もなく振り回されるのは、これで何度目なのだろうか。
もはや状況の整理さえ投げ出してしまいたくなる。
とりあえず一旦冷静になろうと、私はお辞儀して階段へ戻ろうとした。
「待って。あなたはまだやる事が残っているでしょう」
和泉さんにひき止められて、何か言おうと口を開く。
「えっと、お世話になります」
「言えるんですね、普通のこと」
鼻で笑いながら和泉さんに言われて、私はとても恥ずかしい思いをした。
今度は和泉さんが私を連れて、住人ひとり一人に紹介してくれる。
私は丁寧に頭を下げて、短く挨拶した。
そっちの方が良いとか、似合ってるとか、おおむね歓迎される。
それでも眼鏡の人は、絶対に笑顔を見せてくれなかった。
きっと疲れているんでしょう、と和泉さんは言ってくれたけど・・・。
こうして、この世界での私が住む場所は、一応決まった。
アイナナ世界初日、寮の自室にて、鳥居先生と夜をしのぐ。