第1章 落ちて拾われて
頭の先から爪の先まで、手早く「かわいい」にされた。
鳥居先生の指先で、私が女の子に変えられていく。
編み上げられた髪に飾られたリボンも、艶やかに整えられたネイルも、私の好みから離れている。
それでも、彼女の魔法のような手を振り払えなかった。
人の好みに飾られた私は、さぞ愛らしく、大変に滑稽なのだろう。
されるがままにしていると、数十分で支度が終わった。
「本当は髪も巻いてあげたいし、ジェルネイルだってしてあげたいんだけど、今回は時間も考えてここまで。我ながら上出来。本当に可愛いよ、あんた」
満足そうに笑って、鳥居先生が私をほめる。
嬉しくないし、早く元の格好に戻したい。
「嫌だって顔してるね。でも挨拶が終わるまでは我慢してもらうよ」
パシッと、気合いを注入するみたいに背中を叩かれる。
そのまま腕を引かれて、私は部屋を出た。
鳥居先生と一緒に階段を降りて、リビングへ戻ってくると和泉さんだけがテーブルに残っている。
背中越しに見える彼の手の中には、何かの本とペン先。
調べ物でもしているのかもしれない。
「和泉一織サアン、ちょっと良いかい?」
鳥居先生が呼び掛けると、和泉さんは面倒臭そうにこちらを向いた。
視線が私に注がれる。
ひそめられた眉、引き結ばれた口。
これはますます、嫌われてしまったんだなと思った。
「何ですか。私も暇じゃないので、用件は手短にお願いします」
早口で言われた声は上擦っていて、怒らせてしまった事を強く認識できる。
私が浮かれているように見えたんだろう、こんな姿では仕方ない。
やはり、野宿を考えてすぐにこの家から出るべきか。
着替えた時に部屋に置いてきてしまった作業服を取りに、私が階段へ引き返そうとすると鳥居先生が大声で言った。
「こちらのお嬢さんを最後まで面倒見てあげられるのは、拾った本人だけだろう? 優秀で才能あるアイドルのあんたにとっては、お荷物にすらならないだろうね。まあ、ガキのあんたにこんな可愛いお姫さまは勿体ないかもしれないけど?」