• テキストサイズ

get back my life![アイナナ]

第1章 落ちて拾われて


 最初からその形だった物なんて存在しない。
 ここで作られている紙も、元は木であり、その木も元は種だった。
 種の元は花で、花は蕾の形を経て開く。
 というように、物とは多くの存在が不変であり、いつか全く別の形へ変容していくもの。
 それが自然。
 私自身も、その自然の一つに過ぎないのだろうと、なぜかこんなタイミングで思う。
(鍋を掃除してただけなのになぁ)
 細かく砕いた木の繊維は、鍋の中でグツグツ煮詰められてから、紙の原料となる。
 その繊維を煮る鍋の中へ、私は滑り落ちていた。
 鍋の大きさはせいぜい、風呂釜程度。
 底は溺れない程度に浅く、木の爽やかな匂いにまみれているはずだ。
 なのに、私は落ちている。
 製紙工場の屋根が遠のき、光が細くなる。
 私の体は風に包まれ、凄まじい速さで闇にのまれていく。
 何も見えない。
 自分の身に何が起きているのか分からず、理解する余裕も与えられず。
 ただただ、私が落ちていく。
 そういえば、こんな話を知っている。
 井戸に落ちて戦国時代に迷いこんだ少女、兎を追いかけて穴の中へ飛び込み不思議の国を冒険した少女、竜巻に飛ばされて魔法の国を渡り歩いた少女。
 彼女達は、事故で様々な世界へ連れ去られ、最後には元居た場所への帰り道を得る。
 私は今、その一人になっているのだろうか。
(だなんて、馬鹿みたいな子どもっぽい現実逃避やね)
/ 190ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp