第1章 落ちて拾われて
「この子はここに住む。あたしが責任持つ。必要な物は持ってきた。細かい事は後。以上!」
両手をパシンと鳴らして鳥居先生が言い終えると、私は背中を押されて階段を上がった。
話を進めるのが早すぎて、誰も何も言えなかった。
紡さんさえも置いて来てしまった。
このお医者さまは何という人なんだ。
もう色々とぶっ飛んでいて、もはや呆れてしまう。
階段から一番近い右手側の部屋に通され、電気がつけられる。
少し埃っぽさはあるものの、綺麗な部屋だった。
家具も何もないから、逆に住みやすいと思う。
リビングに比べて少し肌寒いものの、野宿するよりずっとずっと良い。
でも、勝手に部屋を使って良いんだろうか。
鳥居先生は床に重たいバッグを置くと、中から沢山の冬用の服と靴、化粧品に髪飾り、それから用途の分からない物や何枚かの書類を広げて見せた。
「じゃ、念のため今から着替えよっか」
ぽい、と渡された服を広げると、私は思わず顔をしかめた。
汚れた作業服を脱いで、着なれない服に袖を通す。
家を出て一人暮らしになって以来、こんな服はもう着ないと思っていたから、心が落ち着かない。
小さい頃から、私の憧れはプリンセスではなくヒーローの方だった。
軽い身のこなしで相手の攻撃を受け流し、洗練された技で悪を打ち砕く。
学校の部活動も、許されるなら文芸部より運動部に入りたかった。
無駄の無い活動的な、格好いい服を着て過ごしたかった。
でも私が求められる服装は、今身に着けているこのフリルとレースに彩られたものばかり。
私は「かわいい」もので居なさいと言われて育った。
お人形になれと言われているみたいで、嫌なのに。
部屋の外で待っている鳥居先生に見せるため、扉を開ける。
「ベリーキュート! 次は化粧をしてあげるよ」
フレアワンピースに着替えた私を見て浮き足立つ彼女は、とても良い笑顔をしている。
こんな顔を、私は大人たちから向けられてきた。
その顔たちを見続けるのも、悲しませるのも辛くて、私は劇団をやめたんだ。
なのにまたお人形になる事を求められて、簡単に受け入れてしまうのだから。
きらいだ、こんな私なんて。
やめてと言えない私がお人形にされるのは、残念ながらきっと自然な事なのだと思う。