第7章 今日からお世話になります
二階堂さんが私達を見回しながら、そう尋ねてきた。
私は再び頭がフリーズして。
六弥さんが、説明を始めてしまった。
「――なるほどな。一華、何かあるのか?」
ちゃん付けで呼ばれていない所に、二階堂さんが本気で心配して下さっているのを感じられる。
「な、何も無いです! 何も!」
立ったまま、両手をぶんぶんとワイパーのように振り回して。
私は首まで左右に振って、全力で否定した。
だってこんなの、どう説明すれば良いのか、分からない。
でも二階堂さんは、眼鏡をすっと上げながら。
「お兄さんに話してみなさい。後でも良いから」
と、言われてしまった。
二階堂さんはその後すぐに、手を洗いに洗面所の方へ向かわれた。
だから返事を返す間もなくて。
私はパニックが抜けきらぬまま、立ち尽くす。
「そろそろ座って、食事に戻ったらどうですか。せっかくの兄さんの料理が冷めてしまいます」
和泉さんからそう言われて、私はようやく席に着く事ができた。
そうだった、とにかく食べきらないと。
椅子に座った私は、箸を持つ。
煮物に再び手をつけて、無言で口を動かした。
皆さんの顔を見る余裕なんてどこにもなくて。
とにかくもぐもぐとしていると、二階堂さんが戻ってくる。
「今日の晩飯、やっぱり豪華だなー。良かったな、イチ」
「どうも」
短く答えた和泉さん。
どういう事なのか分からず、和泉さんと二階堂さんの顔を見た。
箸を置いてまで、まじまじと。
でも、何も分からなくて。
口の中の煮物を飲み込んでから、私が尋ねた。
「和泉さんの好物なんですか?」
「あれ、知らねえのか?」
やや驚いた様子の三月くんに、尋ね返される。
知らないって、何を?
首を傾げて考えていたら、三月くんが嬉しそうに。
「今日は一織の誕生日なんだよ。おめでとう、一織!」
「それは朝から何度も聞きましたよ。そんなに数多く祝われずとも、私はすねたりしませんよ」
もごもごと、和泉さんは言いにくそうに答える。
私は、顔が青ざめていた。
よりによって和泉さんのお誕生日に、私は朝早くからお手をわずらわせてしまって。
なんという失態!
どう詫びれば良いのか分からず、一人で血の気が引く思いをしていると。
「おーい、一華ちゃん?」
二階堂さんから名前を呼ばれる。