第7章 今日からお世話になります
――どんな事でもいつでも相談に乗るから、少しずつこのアイナナ世界になじんで行こうね。
その言葉が、善意であるはずだというのに。
私は、信じきれずに居た。
だが今は、とにかく、この事を考えるのは後にしなければ。
書類の束を一つずつ開いていく。
それらには、これまた一枚ずつ小さなメモ用紙が挟まれていた。
書類が何の目的で必要なのかが、またカタカナで書かれている。
記入するのは住所と郵便番号、名前、性別、生年月日、年齢、連絡先だ。
困った。
住所なんて、分からない。
この寮の住所で良いのだろうか。
それとも、移り住んだ場所が決まってから記入すべき?
そもそも、私はいつまでこの寮に居られるのだろう。
私は、この寮に居たいのだろうか。
早く出るべきなのだと思うけれど。
居心地が良い。
この場所が、私の事を許してくれている気がして。
二階堂さんに受け入れてもらえて。
鍵を預けられるくらいにまで、皆さんから信用されていて。
まだ短期間しかこの部屋で過ごしていないけれど。
――なんだか、離れがたい。
いや、そんな事、思ってはいけない。
私はこの寮の異物だ。
皆さんの優しさに、甘えてはならない。
いずれ必ず、この寮から去らなければならないのだから。
それに――。
それに、私はいつの日か、元の世界へ帰るのだから。
*
書類には、住所と郵便番号の欄を空白のままで、記入を終わらせた。
そして、後から気づいてしまったのが。
あと一ヶ月もしない内に、私は年齢が変わってしまう。
つまり、それまでに住所と郵便番号を記入して、書類を提出しなければならないのだ。
年齢も未記入にすべきだったか?
いや、あまり鳥居先生を待たせる訳にもいかないだろう。
住所と郵便番号をどうすべきなのかは、次に鳥居先生と会った時に聞けば良い。
多分。
コンコンと、ノック音がする。
気づけば空はすっかり暗くなってしまっていた。
そういえば、ちょっと肌寒い。
はい、と返事をしながらドアを開けると。
和泉さんと、三月くんが立っていた。
「そんな薄着で、寒くないのか? カーテンも開けたままで、不用心だぞ」
と、三月くん。
和泉さんは、黙って頷いていらっしゃった。
「すみません、今閉めます。・・・あ」