第7章 今日からお世話になります
私達には無い、希少なタイプの人間です。
と、言われて。
私のどこが一体希少なのだろう、と首を傾げた。
その仕草が、和泉さんを苛立たせてしまったのか。
和泉さんはまた手を口元に持ってきて、しかめっ面になった。
あ、怒られる。
と思い頭を下げようとすると。
「そういう所が、希少なんです。マネージャーよりも頭が悪いのに、マネージャーのように懸命で。決して手を抜こうとせず、私達に対して真摯に向き合おうとして下さる。何事にも挑戦的なのに、いつも空回りして、私達を心配させますが。反面、そこが私達に安らぎを与えて下さるんですよ。あなたが、あまりにも純粋だから。そこに私も・・・・・・いえ、なんでもありません。とにかく、あなたは無理に背伸びしなくて良いんです。分かりましたか?」
何を言いよどんだのだろうか、と思うけれど。
それ以上に、和泉さんから褒められた事が信じられなくて。
いや、これは褒められていないんじゃないか?
と疑ってしまう程だった。
実際、けなされてもいる。
「もったいないお言葉です。私は、和泉さんが思うような人間じゃありません。もっと、私は、汚い人間です」
汚い、そう、汚い人間だ。
私の手は、幼い頃から穢れている。
だから、こんな褒め言葉に値しないのだ。
私は首を横に振り。
「ですから、その言葉は私に合いません」
と言った。
和泉さんは、再び右手を腰に降ろし、また大きくため息をつく。
「いい加減、ご自分の事を大事にされてはどうですか。私これでも、かなり勇気を出してあなたに今の事言ったんですよ」
「それは、すみません。でも、受け取れないです」
「頑固な人ですね」
まあ良いでしょう。
と、仰って和泉さんは堂々たる態度で笑みを浮かべる。
うつむいていた私は、顔を上げて和泉さんの目を見た。
和泉さんの目は、吸い込まれそうなくらい綺麗な真っ黒で。
優しいのに、どこか怖い印象も持ち合わせていた。
「じきに分からせて差し上げます。あなたという人が、どういう人物なのか。私達にとって、どんな存在なのか。あなたは今まで通り、何も気にせず過ごしていて下さい。きっと、言わせてみせますよ。自分が間違っていました、とね」
和泉さんは、大層自信が、おありのようだった。
そんな日は訪れないだろうと思いながら。
私は返事に困った。
