第7章 今日からお世話になります
私がパンケーキを食べ終えた頃、和泉さんはコーヒーを啜っていらっしゃった。
「ごちそうさまでした」
「初めてにしては、悪くない味でしたよ、そのパンケーキ」
「ありがとうございます・・・」
なんか、さっきみたいに恥ずかしい。
和泉さんって、社交辞令とかも仰るんだろうな。
だから、こんな失敗作でも褒めて下さるのだ。
私は、社交辞令はあまり言いたくない。
その場を丸く収める素晴らしい行動である事は、理解している。
でも、やっぱり本音で生きていきたい。
と、思ってしまう。
私なんて、嘘で固めた偽りその物のような人間なのに。
矛盾している事は百も承知。
だけど、それでも、私はできるだけ嘘をつきたくない。
本心だ。
けれど。
それを赦される人間ではないのが、きっと事実なのだろう。
食後のコーヒーは、とても苦かった。
この苦みが、私が抱えている矛盾の大きさを表しているのだとしたら。
私のコーヒーは、もっと苦くあるべきはずだ。
後片付けを引き受けようとしたら、和泉さんは。
「これも気分転換です」
と仰って、素早くシンクの前に立たれた。
私が。
「パンケーキも失敗したんです。後片付けくらいは私にさせて下さい」
と申し出たら。
「何言ってるんですか。病人は大人しく休んでて下さい。あなた、ご自分が今無理してるかどうかも分からないんですか」
また呆れられてしまう。
そして、食器はすぐさま洗い終えられてしまった。
「役立たずで、すみません」
しょんぼりしながら言うと、和泉さんが口元に手をやって。
「それ、本気で言ってます?」
何が? と思いながらも、正直に。
「私、何か変な事言いました?」
と尋ねた。
「はあ。もう良いです」
ため息をつかれてしまった。
そして、食器棚に仕舞われるお皿とコップ。
本当に、何もできなくて、すみません。
「では、私は勉強に戻ります。良い息抜きになりました。あなたのおかげで」
「そんな。私はなんにも出来ていません」
「あなたという人は。言わなければ分かりませんか」
腰に手を当て、呆れられながら言われてしまい、私は頭にハテナマークが浮かぶ。
「すみません」
とりあえず謝ると、和泉さんは、言いづらそうに口を開いた。
「あなたは、そこに居るだけで良いんですよ。場を和ませます。そういう才覚があるんでしょうね」
