第7章 今日からお世話になります
隣で和泉さんから直々にお教え下さっているにも関わらず。
パンケーキの粉を混ぜるのがトロく、混ざりきらず、焼いてみても焦がしそうになり、出来上がりはどこかパサついていて。
結局、和泉さんにもう一枚、一から作らせてしまった。
更にはその和泉さんが作ったパンケーキは私に、と仰るものだから。
私は恐れ多くて、自分が焼いた方を食べると言い張った。
和泉さんは。
「変な意地を張らなくても良いでしょう。黙って私が焼いたパンケーキを食べて下さい。それとも、私の作ったパンケーキが食べられない、余程の理由でもあるんですか」
あるんです。
私にとっては、余程の理由なんです。
「ええから! 私のは私に食べさせてぇな! 和泉さんは和泉さんが焼いた方食べて!」
自分が焼いたパンケーキの乗ったお皿を、頑なに譲らず。
私はそう言って押し切った。
和泉さんがまた傷ついた事に、私はなんにも気づかずに。
結局、テーブルに着くとすぐに、和泉さんが私の皿に乗ったパンケーキにフォークを入れ、止める事も出来ずパクっと一口食べられてしまった。
「間抜けな顔ですね」
と言って笑った和泉さんの顔は、とても楽しそうに見えた。
「和泉さんのお口にそんな失敗作をなんて! 恥ずかしいです!」
心からの叫びだった。
「パンケーキ、作った事無かったんですか? ご家族とかと一緒に、小さい頃のおやつに出ませんでした?」
瞳孔が開く。
私は、唐突に家族の事を聞かれて、少し動揺した。
が、無難な答えを返せば大丈夫だと判断する。
「作った事も、作ってもらった事もありません。パンケーキはお店で食べる物でした」
「そうなんですね。まあ、ご家庭で作らない所も珍しくないでしょうし。ウチはケーキ屋の家なんです。兄さんは調理師免許も持ってるんですよ。あなたのご両親は、どんなお仕事を?」
私は欠けたパンケーキから目線をそらさず、和泉さんの問いに答えた。
「父は、会社員で。母は、パート・・・です」
「弟さんもいらっしゃるんでしたっけ。確か名前は、庵さん、でしたか?」
「庵は、私と二つ違いの弟です。多分、普通に暮らしてると思います」
「ご自分の弟さんの事なのに、よく知らないんですか?」
「・・・・・・そうですね。姉として失格ですよね、私」
作り笑いをして顔を上げた。
和泉さんは、それ以上何もお聞きにならなかった。
