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get back my life![アイナナ]

第7章 今日からお世話になります


 鳥居先生が、腰のポケットから寮の玄関の鍵を取り出し、私に渡してきた。
 受け取ると、和泉さんに促されて車を降りる。
 鳥居先生は、ドアの窓を開けて、運転席から私達を見上げた。
「あたしは今日はここまで。仕事が残ってるんでね。一華、ちゃんと休むんだよ、良いね? 一織くんは、一華の事をよく見ておくように。じゃ」
 片手を上げて、鳥居先生は前を見据えると、窓を閉めながら車を発進させた。
 昼前の冬の外は、やっぱりまだ寒かったけれど。
 私は、鳥居先生の車に向かって一度深くお辞儀した。
 あの言い方だと、多分鳥居先生は私の事を、一人にしないように和泉さんに声をかけたのかもしれないから。
 そして和泉さんは、鳥居先生の声に素直に頷いて着いて来てくださったのだろう。
 私が頭を上げると、鳥居先生の車は既に遠くにあって。
 振り返って和泉さんにも会釈しながら、渡されたばかりの鍵を玄関の鍵穴に差し込んだ。
 ガチャリ。
 と鍵穴が回る。
 ドアを開けて靴を脱ぐと。
(ああ、帰ってきたんだな)
 と思った。
 そして、その感情に自分で驚く。
 いつの間にかこの寮が、私の家に、居場所に、なっていた事に気付いたから。
 今までと何が違うんだろう、と少し考えて。
 そうか、と思い出す。
 玄関の鍵を預かり、その鍵で最初に帰って来たのが、私だったから。
 それは居候への扱いでは決して無く、ちゃんと「仲間」として扱われている証だから。
 そう考えていると、和泉さんが後ろから私を急かした。
「何をぼーっと突っ立っているんですか。早く部屋に戻って下さい」
 そうだった、と私は慌てて玄関から廊下を進んで、リビングに入る。
「お茶淹れましょうか?」
 私が尋ねる。
「お構いなく。それよりも、部屋に戻って休まれてはどうですか? まあ、あなたが一息つきたいというのであれば、お付き合いしますが」
 その言葉に、私は少し考えた。
 もしや私はとっとと部屋に入るべきなのか?
 と。
 だが、正直私は和泉さんに何かお礼がしたい気持ちだった。
 お茶の一杯ごときが、ここまで着いて来てくださったお礼に、釣り合うとは思わないけれど。
 私は、じゃあすみません、と一言置いてから台所に入り。
 和泉さんと私の分の、温かい緑茶を淹れた。
「粗茶になりますが」
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