第7章 今日からお世話になります
「よく頑張ったよ、あんたは。今日はもう力抜いて、休んどきな。これは医者として言ってる。意味、分かるよね?」
ぽんぽん、と優しく優しく頭を撫でられながら。
私は鳥居先生に諭された。
その瞬間、私は暗示がかかったみたいに体から力が抜けていって。
鳥居先生の背中に腕を回し、甘えるようにその胸に抱かれた。
「でも、私まだ帰るわけには」
踏ん切りがつかない私に、鳥居先生が言う。
「気を張らなくても良いよ。あんたは頑張ってる。泣きたくなったら、泣けば良いさ。けど、今日は帰るよ。良いね?」
それがお医者様としての意見だと分かって。
こくん、と頷く。
仕事では、まだ大した事はできていないけれど。
ただ一言、頑張ってる、と認めてもらえたのが、一番嬉しかったかもしれない。
私は、紡さんを見た。
なぜか申し訳なさそうな顔をしていて。
私はその頭に右手を伸ばした。
紡さんになら、触れても怒られないだろう。
女同士だし。
「ありがとうなぁ、心配してくれて。でも、お姉さんにはお姉さんなりの意地があるねん。さっきはごめんな?」
自然に笑えていたと思う。
紡さんは、私に頭を撫でられながら。
「はい。こちらこそ、すみませんでした」
と、言ってくれた。
私の手の中で、恥ずかしそうに笑う彼女。
その笑顔が、きっとアイドリッシュセブンの皆さんを照らしてるんだろうと思う。
この笑顔を、私は守って行くべきなのだと感じた。
その後、私はすぐに寮に戻る事になった。
鳥居先生の車に乗り込んだ後で。
寮の玄関の鍵を、姉鷺さんからの電話の時に、デスクに置きっぱなしにした事に気づいて。
それを伝えると鳥居先生が、一人で事務室に行くと言ってくれた。
私は、鳥居先生が車から出て行ったのを見送りながら。
不意に、鳥居先生が言ってくれた言葉を思い出して。
――泣きたくなったら、泣けば良いさ。
今、泣きたい。
そう思うと、涙がつう、と頬に垂れる。
声は出なかった。
でも、静かに涙が流れてくる。
拭うのもわずらわしく、ぼーっと前を見ながら、ただ涙を流していた。
ばたり、と車のドアが開く。
後部座席のドアだった。
鳥居先生が戻って来たのだと思った私は、そのままの顔で振り返り。
「おかえりなさい」
「また一人で泣いてたんですか?」